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特許法39条の先願|異日・同日出願と協議、29条の2との違い

特許法・実用新案法 読了 約11分

弁理士試験短答式の特許法39条(先願)を項ごとに整理。異日出願の1項、同日出願と協議の2項、特許と実用新案の間の3項・4項、先願の地位を失う5項とそのただし書、協議命令とみなし不成立の6項・7項、平成23年改正で削除された冒認出願の規定、29条の2(拡大先願)との違いまで扱います。

先願(39条)は、同じ発明について複数の出願が重なったときに、誰が特許を受けるかを決める規定です。条文は7項ありますが、どの項も「異なった日か同日か」「特許同士か特許と実用新案の間か」「先願の地位が残るか消えるか」の組み合わせでできています。短答の特許・実用新案では、29条の2(拡大先願)や実用新案法7条と混ぜた枝がよく作られます。

結論から言うと、39条の枝は「日が違えば最先の出願人だけ(1項・3項)」「同日なら協議、不成立ならいずれも受けられない(2項・4項)」「放棄・取下げ・却下・拒絶確定なら初めからなかったものとみなす。ただし協議不成立による拒絶確定は地位が残る(5項)」の3段で読みます。これに、協議命令が義務で、みなし不成立が裁量であること(6項・7項)と、冒認出願にも先願の地位があること(平成23年改正)を加えれば、39条の枝はまとめて判断できます。

条文はe-Gov法令検索の特許法・実用新案法の原文で確認しています。29条の2の要件そのものは「特許法の拡大先願(29条の2)」で扱っているので、この記事では39条を項ごとに深掘りし、最後に両者の違いを並べます。

39条の7つの項を整理する

39条の7つの項の役割
39条の7つの項の役割

39条は、場面ごとに項が分かれています。先に全体を表で押さえます。

項 場面 結論
1項 特許出願同士・異なった日 最先の特許出願人のみが特許を受けられる
2項 特許出願同士・同日 協議で定めた一の特許出願人のみ。協議不成立・協議不能ならいずれも受けられない
3項 特許出願と実用新案登録出願・異なった日 特許出願人は、実用新案登録出願人より先に出願した場合にのみ特許を受けられる
4項 特許出願と実用新案登録出願・同日 協議で定めた一の出願人のみ。不成立・協議不能なら特許出願人は特許を受けられない
5項 放棄・取下げ・却下・拒絶確定 1項〜4項の適用について初めからなかったものとみなす(ただし書あり)
6項 2項・4項の場合 特許庁長官は期間を指定して協議とその結果の届出を命じなければならない
7項 6項の期間内に届出がない 協議が成立しなかったものとみなすことができる

条文:特許法39条(e-Gov法令検索)

39条違反は、拒絶理由(49条2号)、特許異議の申立ての理由(113条2号)、特許無効審判の無効理由(123条1項2号)になります。いずれも「39条第1項から第4項まで」と書かれていて、5項から7項は要件や手続の規定なので含まれていません。

異なった日の出願(1項)

比べるのは請求項に係る発明同士

1項は、「同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたとき」は、最先の特許出願人のみが特許を受けられると定めます。ここでいう発明は「特許出願に係る発明」、つまり特許請求の範囲に記載された発明です。先願の明細書にだけ書かれた発明は、39条の比較の対象になりません。明細書の記載で後願を排除するのは29条の2の役割です。

39条は先願と後願の請求項に係る発明同士を比べ、明細書にだけ書かれた発明は対象にならない
39条は先願と後願の請求項に係る発明同士を比べ、明細書にだけ書かれた発明は対象にならない

先後は「日」で決まる

先後は出願の「日」で判断します。時刻は関係ありません。同じ日の午前と午後に出された2つの出願は、1項ではなく2項の同日出願として扱われます。「同日の出願であっても、出願の時刻が早い方が先願となる」という枝は誤りです。

出願日が遡る出願では、遡った日で先後を判断します。分割出願は44条2項本文によりもとの特許出願の時にしたものとみなされ、国内優先権の主張を伴う出願は、先の出願の当初明細書等に記載された発明について、41条2項により39条1項から4項までの適用上、先の出願の時にしたものとみなされます。

同一出願人・同一発明者にも働く

1項には、出願人や発明者が同じ場合を除く規定がありません。自分の先願と同じ発明を自分で後から出願しても、後願は1項により拒絶されます。この点が、発明者同一・出願人同一なら適用されない29条の2との大きな違いです。

同日の出願と協議(2項・6項・7項)

協議が成立しないときはいずれも特許を受けられない

2項前段は、同一の発明について同日に二以上の特許出願があったときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみが特許を受けられるとします。後段は、協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、「いずれも」特許を受けられないと定めます。くじ引きや出願時刻で決める仕組みはありません。

同日の特許出願は協議で一の出願人を定め、協議が成立しなければいずれも特許を受けられない
同日の特許出願は協議で一の出願人を定め、協議が成立しなければいずれも特許を受けられない

協議命令は義務、みなし不成立は裁量

6項は、2項又は4項の場合、特許庁長官は相当の期間を指定して、協議をしてその結果を届け出るべき旨を出願人に「命じなければならない」とします。協議命令を出すかどうかに裁量はありません。

協議命令は特許庁長官が必ず出すもので、期間内に届出がないときの協議不成立のみなしは長官の裁量
協議命令は特許庁長官が必ず出すもので、期間内に届出がないときの協議不成立のみなしは長官の裁量

7項は、指定した期間内に届出がないときは、協議が成立しなかったものと「みなすことができる」とします。こちらは裁量です。短答では、6項を「命ずることができる」、7項を「みなす」と入れ替えた枝が作られます。

項 主体 文末 性質
6項 特許庁長官 命じなければならない 義務
7項 特許庁長官 みなすことができる 裁量

条文:特許法39条6項・7項(e-Gov法令検索)

協議命令の主体は特許庁長官であって、審査官ではありません。この2つの項は、平成23年改正の前は7項・8項にありました。改正で旧6項(冒認出願の規定、後述)が削除されたために繰り上がったものです。古い問題集で「39条7項の協議命令」と書かれていても、現行法では6項です。

特許と実用新案の間(3項・4項)

異なった日なら先に出願した方

3項は、特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一で、出願が異なった日にされたときは、特許出願人は実用新案登録出願人より先に出願した場合にのみ特許を受けられるとします。実用新案登録出願が先なら、その後の同一発明の特許出願は特許を受けられません。

同日なら協議。ただし実用新案登録に基づく特許出願は除く

4項は、同日の特許出願と実用新案登録出願について、協議で定めた一の出願人のみが特許又は実用新案登録を受けられるとし、協議が成立しないときは特許出願人は特許を受けられないとします。

特許出願と実用新案登録出願が同日なら協議し、不成立なら特許出願人は特許を受けられない
特許出願と実用新案登録出願が同日なら協議し、不成立なら特許出願人は特許を受けられない

4項の括弧書きは、46条の2第1項の実用新案登録に基づく特許出願と、その基礎になった実用新案登録の考案とが同一である場合を除いています。実用新案登録に基づく特許出願は、実用新案登録出願の時にしたものとみなされるので(46条の2第2項)、そのままでは同日出願として協議の対象になってしまうからです。この場合は、特許出願の際に実用新案権を放棄することになっています(46条の2第1項後段)。実用新案から特許への切り替えの全体は「実用新案と特許の違い」を参照してください。

実用新案法7条との対応

実用新案法7条は、39条とよく似ていますが、同日出願の扱いが違います。

場面 特許法39条 実用新案法7条
同じ法の出願同士・異日 最先の出願人のみ(1項) 最先の出願人のみ(1項)
同じ法の出願同士・同日 協議。不成立ならいずれも受けられない(2項) 協議なし。いずれも登録を受けられない(2項)
特許と実用新案・異日 先に出願した方(3項) 先に出願した方(3項)
特許と実用新案・同日 協議(4項) 39条4項の協議が不成立なら実用新案登録を受けられない(6項)
先願の地位を失う場合 放棄・取下げ・却下・拒絶確定(5項) 放棄・取下げ・却下(4項)。特許出願の拒絶確定は3項の適用について(5項)

条文:特許法39条、実用新案法7条(e-Gov法令検索)

実用新案登録出願同士の同日出願には協議の規定がなく、いずれも登録を受けられません。実体審査をしないで登録する制度なので、協議を経る手続がないと理解しておくと覚えやすくなります。

先願の地位を失う場合(5項)

放棄・取下げ・却下・拒絶確定

5項本文は、特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その出願は1項から4項までの適用について「初めからなかつたものとみなす」と定めます。先願が拒絶確定すれば、後願がその発明について特許を受ける道が開けます。

国内優先権の基礎とされた先の出願は、42条1項により一定期間の経過時に取り下げたものとみなされます。取り下げられた以上、先の出願そのものは5項により39条の先願としての地位を失いますが、後の出願が41条2項で先の出願の時にしたものとみなされるので、後の出願の側でその日を基準に先後が判断されます。

協議不成立で拒絶が確定したときは地位が残る

5項ただし書は、2項後段又は4項後段に該当すること、つまり同日出願で協議が成立しなかったことにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、本文を適用しないとしています。協議不成立で拒絶された出願は、「初めからなかった」ことにはならず、先願の地位が残ります。

協議不成立で拒絶が確定した出願は初めからなかったことにならず、後から出された同じ発明の出願を排除する
協議不成立で拒絶が確定した出願は初めからなかったことにならず、後から出された同じ発明の出願を排除する

ただし書がないと、協議不成立で同日出願が両方とも拒絶された後に、別の者が同じ発明を出願すれば、先願がなかったことになって特許を受けられてしまいます。協議で決着しなかった当事者より後から来た者が得をしないように、地位を残しています。

先願の結末 先願の地位 根拠
放棄・取下げ・却下 初めからなかったものとみなす 5項本文
拒絶査定・拒絶審決の確定(一般) 初めからなかったものとみなす 5項本文
協議不成立による拒絶の確定 残る 5項ただし書
特許された 残る(そもそも5項に当たらない) 1項

条文:特許法39条5項(e-Gov法令検索)

冒認出願の先願の地位(平成23年改正)

平成23年改正前の39条6項は、発明者又は考案者でない者であって特許を受ける権利又は実用新案登録を受ける権利を承継しないものがした出願は、1項から4項までの適用については出願でないものとみなすと定めていました。冒認出願には先願の地位がなかったわけです。

平成23年改正で旧6項が削除され、冒認出願にも先願の地位が認められるようになった
平成23年改正で旧6項が削除され、冒認出願にも先願の地位が認められるようになった

この改正で、真の権利者が冒認者の特許権の移転を請求できる74条が新設され、旧6項は削除されました。冒認出願を先願として扱わないと、移転請求で権利を取り戻すまでの間に第三者が同じ発明で特許を取れてしまい、取り戻した権利の意味がなくなるからです。現行法では、冒認出願も39条の先願として後願を排除します。改正の全体は「冒認出願と74条の移転請求」で扱っています。

項目 平成23年改正前 現行法
冒認出願の先願の地位 なし(旧6項) あり
協議命令の位置 7項 6項
みなし不成立の位置 8項 7項

29条の2(拡大先願)との違い

39条と29条の2の違い
39条と29条の2の違い

39条と29条の2は、どちらも先の出願が後の出願を排除する規定ですが、比べる範囲も除外も違います。拡大先願の記事の比較表に、判断の材料になる行を足して並べます。

項目 39条(先願) 29条の2(拡大先願)
先願側で比べるもの 特許請求の範囲に係る発明 当初明細書等に記載された発明全体
後願側で比べるもの 請求項に係る発明 請求項に係る発明
先願の公開 不要 後願の出願後の公開が必要
同日の出願 協議(2項・4項) 適用なし(「日前」の出願に限る)
発明者が同一 適用される 適用されない
出願人が同一 適用される 後願の出願時に同一なら適用されない
先願の取下げ・拒絶確定 初めからなかったものとみなす(協議不成立は除く) 公開後なら影響しない
冒認出願 先願の地位あり 他の出願になり得る
違反の扱い 拒絶理由・異議理由・無効理由 拒絶理由・異議理由・無効理由

条文:特許法29条の2、39条、49条2号、113条2号、123条1項2号(e-Gov法令検索)

枝を判断するときは、まず「先願が後願の出願の日前か、同日か」を見ます。同日なら29条の2は働かず、39条2項・4項だけの問題です。次に、先願が公開されているか、取り下げられていないかを見ます。公開前に取り下げられた先願は、29条の2の他の出願にならず、39条でも5項で初めからなかったものとみなされるので、どちらの規定でも後願を排除しません。最後に、出願人が同一かを見ます。同一出願人なら29条の2は外れますが、請求項同士が同一なら39条1項の問題が残ります。

短答の枝ではこう問われる

本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。

例題 特許法39条に関し、正しいものはどれか。

  • イ 同一の発明について同日に二以上の特許出願があったときは、最も早い時刻に出願をした特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。
  • ロ 特許庁長官は、同一の発明について同日に二以上の特許出願があったときは、相当の期間を指定して、協議をしてその結果を届け出るべき旨を出願人に命ずることができる。
  • ハ 同日にされた同一の発明に係る二の特許出願について協議が成立せず、いずれの出願についても拒絶をすべき旨の査定が確定した。この場合、その後に第三者が同一の発明について特許出願をしても、39条1項の規定により特許を受けることができない。
  • ニ 甲が特許出願Aをした後、甲が同一の発明について特許出願Bをした場合、AとBの出願人が同一であるから、Bが39条1項の規定により拒絶されることはない。
  • ホ 特許を受ける権利を有しない者がした特許出願は、39条1項の規定の適用については、特許出願でないものとみなされる。

正しいのはハです。イは同日出願は時刻にかかわらず2項の協議の問題なので誤り、ロは6項が「命じなければならない」としているので誤り、ニは39条1項に出願人同一の除外がないので誤り、ホは平成23年改正で削除された旧6項の内容なので誤りです。ハは5項ただし書により協議不成立で拒絶が確定した出願の地位が残るので、正しい枝です。

学習の進め方

39条は、7つの項を「異日・同日」と「特許同士・特許と実用新案」の2軸の表にすると、1項から4項までが4つのマスに収まります。そこに5項(地位を失う場合とただし書)と6項・7項(協議の手続)を書き足せば、条文全体が1枚になります。

次に、実用新案法7条を同じ表に重ね、同日出願の扱いの違いを確認します。最後に29条の2との比較表を、この記事を見ずに再現します。比べる範囲・同日・公開・同一出願人・取下げの5行が埋まれば、混ぜた枝にも対応できます。特許要件全体の学習順序は「特許法・実用新案法の学習法」を参照してください。

よくある質問

39条の先後は出願の時刻で決まりますか

決まりません。39条は「異なつた日」と「同日」で場面を分けています。同じ日の出願は時刻に関係なく2項・4項の同日出願として協議の対象になります。

先願が拒絶されれば、後願はいつでも特許を受けられますか

先願の拒絶査定や拒絶審決が確定すれば、5項本文により先願は初めからなかったものとみなされます。ただし、同日出願の協議不成立を理由とする拒絶の確定は5項ただし書で除かれ、先願の地位が残ります。

協議命令を出すのは審査官ですか

特許庁長官です(6項)。期間内に届出がないときに協議不成立とみなすのも特許庁長官で、こちらは「みなすことができる」という裁量の規定です(7項)。

まとめ

  • 39条1項は特許出願同士の異日出願で、最先の特許出願人のみが特許を受けられる。先後は日で判断し、時刻は関係ない
  • 比べるのは請求項に係る発明同士。出願人や発明者が同一でも適用される
  • 2項は同日出願で、協議で定めた一の出願人のみ。協議不成立・協議不能ならいずれも特許を受けられない
  • 3項・4項は特許と実用新案の間。4項の括弧書きは46条の2の実用新案登録に基づく特許出願を除く。実用新案法7条2項では同日出願に協議がない
  • 5項は放棄・取下げ・却下・拒絶確定で初めからなかったものとみなす。協議不成立による拒絶確定は地位が残る(ただし書)
  • 6項の協議命令は特許庁長官の義務、7項のみなし不成立は裁量。平成23年改正で旧6項(冒認出願を先願としない規定)が削除され、旧7項・8項が繰り上がった
  • 29条の2とは、比べる範囲・公開の要否・同日出願・同一出願人と同一発明者・取下げの扱いが違う
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