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特許法36条の記載要件|実施可能・サポート・明確性を短答用に整理

特許法・実用新案法 読了 約11分

弁理士試験短答式の特許法36条(記載要件)のまとめ。明細書と特許請求の範囲の記載事項、実施可能要件・委任省令要件(4項1号)、先行技術文献情報開示要件(4項2号)、サポート・明確性・簡潔性・委任省令(6項)、拒絶理由・異議理由・無効理由になるかの違い、外国語書面出願、実用新案法5条との比較を整理します。

記載要件(36条)は、出願書類をどう書くかの規定です。条文は長く、項と号が細かく分かれていますが、短答で問われるのはおおむね決まっています。どの書類にどの要件がかかるのか、そして違反が拒絶理由・異議理由・無効理由のどれになるのか、です。特に、先行技術文献情報開示要件(4項2号)と委任省令要件(6項4号)は「拒絶理由にはなるが、異議理由・無効理由にはならない」という扱いの差があり、繰り返し枝の材料になります。

結論から言うと、36条の枝は「発明の詳細な説明にかかる4項」と「特許請求の範囲にかかる6項」に分けて読み、各号の違反が49条(拒絶)・113条(異議)・123条(無効)のどこに入っているかを1枚の表で押さえます。異議・無効の条文は「36条4項1号又は6項(4号を除く。)」と定めているので、4項2号と6項4号は特許後には争えません。これに、外国語書面出願の原文新規事項(49条6号・113条5号・123条1項5号)と実用新案法5条との違いを足せば、記載要件の枝はまとめて判断できます。

条文はe-Gov法令検索の特許法・特許法施行規則・実用新案法の原文で、審査の考え方は特許庁の「特許・実用新案審査基準」で確認しています。

36条の全体像:願書と添付書類

36条は、1項が願書、2項が添付書類、3項以下が添付書類の中身を定めます。

項 対象 定めていること
1項 願書 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所、発明者の氏名及び住所又は居所
2項 添付書類 明細書、特許請求の範囲、必要な図面、要約書
3項 明細書 発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明
4項 発明の詳細な説明 1号 実施可能要件(省令の定めによる)、2号 先行技術文献情報開示要件
5項 特許請求の範囲 請求項に区分し、発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載
6項 特許請求の範囲 1号 サポート要件、2号 明確性要件、3号 簡潔性要件、4号 委任省令要件
7項 要約書 発明の概要その他省令で定める事項

図面は「必要な図面」なので、特許出願では図面を添付しない出願もあり得ます。これに対して実用新案法5条2項は「図面」と定めており、実用新案登録出願では図面が必須です。

36条の記載要件の一覧
36条の記載要件の一覧

発明の詳細な説明の要件(4項)

4項1号 実施可能要件

4項1号は、発明の詳細な説明が「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」を求めます。発明を公開する代わりに独占権を与えるという特許制度の趣旨から、当業者が読んで実施できるだけの記載を求める要件です。

発明の詳細な説明は、当業者が読んで実施できる程度に明確かつ十分に書く必要がある
発明の詳細な説明は、当業者が読んで実施できる程度に明確かつ十分に書く必要がある

「実施」の中身は2条3項の定義に対応します。物の発明ならその物を作れ、かつ使用できること、方法の発明ならその方法を使用できること、物を生産する方法の発明ならその方法で物を生産できることが必要です。審査基準は、当業者が出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等をすることなく実施できる程度に記載されているかで判断するとしています。

4項1号の委任省令要件

4項1号の「経済産業省令で定めるところにより」を受けて、特許法施行規則24条の2は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することを求めています。これを委任省令要件と呼びます。

委任省令要件は、実施可能要件と同じ4項1号の中に入っています。そのため、拒絶理由・異議理由・無効理由の扱いも実施可能要件と同じです(後で表にまとめます)。

4項2号 先行技術文献情報開示要件

4項2号は、発明に関連する文献公知発明(29条1項3号の発明)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知っているものがあるときは、その刊行物の名称その他の情報の所在を記載することを求めます。平成14年改正で加わった要件です。

出願の時に知っている文献公知発明の刊行物の名称等を書く。違反してもまず48条の7の通知がある
出願の時に知っている文献公知発明の刊行物の名称等を書く。違反してもまず48条の7の通知がある

押さえるのは次の3点です。

  • 対象は「文献公知発明」に限られる。公然知られた発明(1号)や公然実施をされた発明(2号)は対象外
  • 基準は「特許出願の時に知っているもの」。知らない文献まで調べて書く義務はない
  • 違反しても、すぐに拒絶されるわけではない。審査官はまず48条の7の通知をして意見書を提出する機会を与えることができ、その通知後に補正又は意見書の提出によってもなお要件を満たさないときに拒絶理由になる(49条5号)

48条の7の通知を受けた場合は、その通知で指定された期間内に補正ができます(17条の2第1項2号)。

特許請求の範囲の要件(5項・6項)

5項 請求項に区分して記載する

5項は、特許請求の範囲を請求項に区分し、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載することを求めます。後段は「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない」としています。請求項どうしが同じ記載になっても、それだけでは違反になりません。

特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めるので(70条1項)、何を請求項に書くかは出願人が決めます。明細書の記載と図面は用語の意義の解釈で考慮されますが(同条2項)、要約書の記載は考慮してはなりません(同条3項)。

6項1号 サポート要件

6項1号は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを求めます。請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えていないかを見る要件です。

請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えてはならない
請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えてはならない

判断は、形式的に同じ言葉が書いてあるかではなく、実質的な対応関係で行います。知的財産高等裁判所の大合議判決(平成17年)は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかを検討して判断すべきだとしました。審査基準もこの考え方に沿っています。実施例で裏付けられた範囲を大きく超えて上位概念化した請求項は、サポート要件違反になりやすい典型です。

6項2号 明確性要件

6項2号は、特許を受けようとする発明が明確であることを求めます。特許請求の範囲は権利範囲を画する書類なので、発明の範囲が不明確だと第三者に不測の不利益を及ぼすからです。

特許請求の範囲は権利範囲を画するので、発明が明確であることが求められる
特許請求の範囲は権利範囲を画するので、発明が明確であることが求められる

短答で知っておきたいのは、物の発明の請求項にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム)です。最高裁平成27年6月5日判決は、このような請求項が明確性要件を満たすのは、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、およそ実際的でないという事情が存在するときに限られるとしました。

6項3号 簡潔性要件

6項3号は、請求項ごとの記載が簡潔であることを求めます。対象は「請求項ごとの記載」であり、請求項の数が多いことそのものを規制する要件ではありません。5項後段のとおり、請求項どうしが同一の記載になることも妨げられません。

6項4号 委任省令要件

6項4号は、その他経済産業省令で定めるところにより記載されていることを求めます。特許法施行規則24条の3が、請求項ごとに行を改めて一の番号を付すこと、番号は記載する順序により連続番号とすること、他の請求項の引用は番号によること、引用する請求項より前に記載しないこと、他の二以上の請求項を択一的に引用する請求項を、さらに択一的に引用してはならないこと(いわゆるマルチマルチクレームの禁止)を定めています。

いずれも書き方の形式に関する定めなので、6項4号の違反は拒絶理由にはなりますが、異議理由・無効理由にはなりません。

出典:特許庁「特許・実用新案審査基準」第II部

拒絶理由・異議理由・無効理由になるか

記載要件の枝でいちばん狙われるのがここです。49条・113条・123条の文言をそのまま並べます。

要件 拒絶理由(49条) 異議理由(113条) 無効理由(123条1項)
4項1号(実施可能・委任省令) なる(4号) なる(4号) なる(4号)
4項2号(先行技術文献情報開示) 48条の7の通知後なお満たさないとき(5号) ならない ならない
6項1号〜3号(サポート・明確性・簡潔性) なる(4号) なる(4号) なる(4号)
6項4号(委任省令) なる(4号) ならない(「第四号を除く」) ならない(「第四号を除く」)
37条(発明の単一性) なる(4号) ならない ならない

113条4号と123条1項4号は、どちらも「第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたこと(とき)」と定めています。4項2号は列挙されておらず、6項は4号が除かれています。発明の単一性(37条)も、49条4号に入っているだけで、異議・無効の理由にはなりません。

記載要件の違反が拒絶・異議・無効の理由になるか
記載要件の違反が拒絶・異議・無効の理由になるか

この差は、要件の性質から説明できます。実施可能要件・サポート要件・明確性要件は、公開の代償としての独占や権利範囲の明確さという、特許の実体に関わる要件です。これに対して、先行技術文献情報の記載や請求項の番号の付け方は、審査を進めやすくするための手続的な要件なので、特許が成立した後にまで瑕疵として争わせる必要はない、という整理です。異議と無効審判の違いそのものは「特許異議の申立ての要件と手続」と「特許法の審判の種類」で扱っています。

外国語書面出願との関係

36条の2は、明細書・特許請求の範囲・必要な図面・要約書に代えて、経済産業省令で定める外国語で記載した外国語書面と外国語要約書面を願書に添付して出願することを認めています(外国語書面出願)。記載要件との関係で押さえるのは次の点です。

論点 条文 中身
翻訳文の提出期間 36条の2第2項 特許出願の日(優先権主張があれば最先の優先日)から1年4月以内。分割・変更等の出願はその日から2月以内でもよい
翻訳文を出さないとき 36条の2第3項〜第5項 長官の通知 → 省令で定める期間内に提出できる → それでも外国語書面(図面を除く)の翻訳文がなければ、1年4月の経過の時に取り下げたものとみなす
翻訳文の扱い 36条の2第8項 外国語書面の翻訳文は、願書に添付した明細書・特許請求の範囲・図面とみなす
補正の基準 17条の2第3項 新規事項の判断の基準は翻訳文(誤訳訂正書で補正した場合は翻訳文又は補正後の明細書等)
原文新規事項 49条6号・113条5号・123条1項5号 明細書等に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないことは、拒絶・異議・無効の理由

ここで逆転が起きます。通常の出願では、17条の2第3項(新規事項の追加の禁止)違反は異議理由・無効理由になりますが(113条1号・123条1項1号)、両号とも括弧書きで外国語書面出願を除いています。外国語書面出願では、特許後に争えるのは「外国語書面の範囲を超えたか」(原文新規事項)であり、「翻訳文の範囲を超えたか」ではありません。補正の時期と目的の制限は「特許法の補正の時期的制限」で整理しています。

外国語書面出願では翻訳文を1年4月以内に出し、特許後に争えるのは外国語書面の範囲を超えたかどうか
外国語書面出願では翻訳文を1年4月以内に出し、特許後に争えるのは外国語書面の範囲を超えたかどうか

実用新案法5条との比較

実用新案法5条は、特許法36条とほぼ同じ作りですが、違いがいくつかあります。

実用新案は図面が必須で、文献開示の号がなく、6項4号の違反は補正命令の対象になる
実用新案は図面が必須で、文献開示の号がなく、6項4号の違反は補正命令の対象になる
項目 特許法36条 実用新案法5条
図面 「必要な図面」 「図面」(必須)
詳細な説明の要件 4項1号 実施可能要件、4項2号 先行技術文献情報開示要件 4項 実施可能要件のみ(文献開示の号はない)
請求の範囲の要件 6項1号〜4号 6項1号〜4号(同じ構成)
6項4号違反 拒絶理由(49条4号) 補正命令の対象(実用新案法6条の2第3号)
無効理由 4項1号又は6項(4号を除く) 5条4項又は6項(4号を除く)(実用新案法37条1項4号)

実用新案は無審査で登録されるので、拒絶理由という形はありません。その代わり、5条6項4号の違反などの基礎的要件は、特許庁長官の補正命令の対象になります。無効理由の範囲は特許法と同じく「6項(4号を除く)」です。

短答の枝ではこう問われる

本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。

例題 特許法36条に規定する記載要件に関し、正しいものの数はいくつか。

  • イ 特許が36条4項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたことは、特許無効審判の無効理由となる。
  • ロ 審査官は、特許出願が36条4項2号に規定する要件を満たしていないと認める場合、48条の7の規定による通知をすることなく、その要件を満たしていないことのみを理由として拒絶をすべき旨の査定をすることはできない。
  • ハ 特許が36条6項4号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたことは、特許異議の申立ての理由となる。
  • ニ 一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となった場合、そのことを理由として36条6項3号の要件を満たさないとされる。
  • ホ 外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないことは、特許無効審判の無効理由となる。

正しいのはロ・ホの2つです。イは123条1項4号に4項2号が挙がっていないので誤り。ロは49条5号が「前条の規定による通知をした場合であつて」と定めるので正しい。ハは113条4号が「第六項(第四号を除く。)」と定めるので誤り。ニは36条5項後段が同一の記載となることを妨げないとしているので誤り。ホは123条1項5号のとおりで正しいです。

学習の進め方

36条は、条文を読むより先に、2つの表を自分で書けるようにすると早く固まります。

1つ目は「どの書類にどの要件がかかるか」の表です。4項は発明の詳細な説明、6項は特許請求の範囲、と左右に分け、号ごとの要件名(実施可能・委任省令・文献開示/サポート・明確性・簡潔性・委任省令)を書き込みます。同じ「委任省令要件」が4項1号と6項4号の2か所にあり、扱いが違うことをここで意識します。

2つ目は、この記事の「拒絶理由・異議理由・無効理由になるか」の表です。113条4号・123条1項4号の「第六項(第四号を除く。)」と、4項2号が挙がっていないことを条文で確かめ、37条と外国語書面出願の行を足します。表が見ずに書ければ、入れ替えの枝はほぼ判断できます。特許法全体の中での位置付けと、問題演習の回し方は「特許法・実用新案法の学習法」を参照してください。

よくある質問

委任省令要件は2つあるのですか

あります。4項1号の「経済産業省令で定めるところにより」を受けた施行規則24条の2(課題及びその解決手段など)と、6項4号を受けた施行規則24条の3(請求項の番号の付け方など)です。前者は4項1号の一部なので異議理由・無効理由になり、後者は6項4号なので異議理由・無効理由になりません。

要約書の記載は権利範囲に影響しますか

影響しません。70条3項は、特許発明の技術的範囲を定めるにあたって要約書の記載を考慮してはならないと定めています。

発明の単一性(37条)を欠くと特許は無効になりますか

なりません。37条違反は49条4号の拒絶理由ですが、113条・123条には挙がっていないので、特許後に異議理由・無効理由として争うことはできません。

まとめ

  • 36条は、4項が発明の詳細な説明、6項が特許請求の範囲にかかる。図面は「必要な図面」で、実用新案は図面が必須
  • 4項1号は実施可能要件と委任省令要件(施行規則24条の2)。4項2号は先行技術文献情報開示要件で、出願の時に知っている文献公知発明が対象
  • 4項2号違反は48条の7の通知を経てなお満たさないときに拒絶理由(49条5号)。異議理由・無効理由にはならない
  • 6項は1号サポート、2号明確性、3号簡潔性、4号委任省令(施行規則24条の3)。5項後段により請求項どうしの同一記載は妨げられない
  • 異議理由(113条4号)と無効理由(123条1項4号)は「36条4項1号又は6項(4号を除く)」。37条の単一性も異議・無効の理由ではない
  • 外国語書面出願では、翻訳文は1年4月以内。原文新規事項は拒絶・異議・無効の理由だが、17条の2第3項違反は異議・無効の理由から除かれる
  • 実用新案法5条は文献開示の号がなく、5条6項4号違反は補正命令の対象。無効理由は5条4項又は6項(4号を除く)
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