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営業秘密の3要件と侵害類型|不競法2条6項・4号〜10号の整理

著作権法・不正競争防止法 読了 約11分

弁理士試験短答式の不正競争防止法・営業秘密のまとめ。2条6項の秘密管理性・有用性・非公知性の3要件、2条1項4号〜10号の侵害類型の読み分け、限定提供データとの違い、15条の消滅時効(3年・20年)、19条の善意取得者の適用除外、21条の刑事罰の概要を条文に沿って整理します。

不正競争防止法は、短答式の著作権・不正競争防止法10問のうち数問を占め、その中で営業秘密は、周知表示・著名表示・商品形態模倣と並ぶ中心論点です。条文は2条1項4号から10号までの7つの号にまたがり、それぞれ「取得」「使用」「開示」と「知って」「重大な過失により知らないで」が組み合わされています。字面が似ているので、号の区別がつかないまま本試験を迎える受験生が少なくありません。

結論から言うと、営業秘密の枝は「その情報は2条6項の3要件を満たすか」「侵害の入口は不正取得(4号系)か、正当に示された後の不正開示(7号系)か」「行為者はいつ、どの程度知っていたか」「差止請求権は3年・20年で時効消滅するか」の4段で読むと整理できます。これに、限定提供データとの違いと刑事罰の有無を重ねれば、営業秘密の枝はほぼ判断できます。

この記事では、営業秘密の定義、侵害類型の構造、民事上の請求と消滅時効、適用除外、限定提供データとの比較、刑事罰の概要、短答で狙われる型の順に整理します。条文はe-Gov法令検索の不正競争防止法原文で確認しています。不競法全体の頻出論点は「著作権法・不正競争防止法の短答対策」で扱っています。

営業秘密の定義(2条6項)

2条6項は、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であつて、公然と知られていないもの」と定義しています。この定義から、次の3つの要件が導かれます。

要件 条文上の表現 意味
秘密管理性 秘密として管理されている 保有者が秘密として管理していること
有用性 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報 事業活動に役立つ情報であること
非公知性 公然と知られていない 保有者の管理下以外では一般に入手できないこと

3つのうち1つでも欠ければ営業秘密ではなく、2条1項4号〜10号の不正競争は成立しません。たとえば、どれほど価値の高い技術情報でも、アクセス制限も秘密である旨の表示もなく社内で自由に閲覧できる状態であれば、秘密管理性を欠きます。

情報の種類は「技術上又は営業上の情報」で、製造方法や設計図のような技術情報だけでなく、顧客名簿や販売マニュアルのような営業情報も含まれます。このうち技術上の情報であるものを、法は「技術上の秘密」と呼んでいます(2条1項10号)。技術上の秘密かどうかで適用される規定が変わる場面があるので(10号、5条の2)、言葉の使い分けに注意します。

営業秘密の3要件と侵害類型の入口
営業秘密の3要件と侵害類型の入口

侵害類型の構造(2条1項4号〜10号)

営業秘密に関する不正競争は、4号から10号までの7つです。一見すると複雑ですが、入口が「不正取得」の系列(4号〜6号)と、入口が「保有者から示された」の系列(7号〜9号)の2列に、物の流通を扱う10号が加わった構造になっています。

不正取得の系列(4号〜6号)

号 行為者 行為 主観
4号 不正取得者本人 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段による取得(営業秘密不正取得行為)と、それにより取得した営業秘密の使用・開示 不要
5号 転得者(取得時に悪意・重過失) 不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないで取得し、使用・開示 取得時に悪意・重過失
6号 転得者(取得後に悪意・重過失) 取得した後に不正取得行為の介在を知って、又は重大な過失により知らないで使用・開示 取得後に悪意・重過失

4号の「開示」には、括弧書きで「秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む」とされ、この定義は次号から9号まで等にも及びます。公衆に公開しなくても、特定の者に秘密のまま伝えれば開示に当たります。

不正開示の系列(7号〜9号)

号 行為者 行為 主観・目的
7号 保有者から示された者 営業秘密を示された場合に、不正の利益を得る目的又は保有者に損害を加える目的で使用・開示 図利加害目的
8号 転得者(取得時に悪意・重過失) 営業秘密不正開示行為であること、又はその介在を知って、若しくは重大な過失により知らないで取得し、使用・開示 取得時に悪意・重過失
9号 転得者(取得後に悪意・重過失) 取得した後に不正開示行為があったこと又はその介在を知って、又は重大な過失により知らないで使用・開示 取得後に悪意・重過失

7号の行為者は、従業者やライセンシーのように、営業秘密保有者から正当に営業秘密を示された者です。取得そのものは正当なので、取得行為は不正競争になりません。不正競争になるのは、図利加害目的で使用・開示したときです。4号が目的を問わないのと対照的です。

保有者から正当に示された営業秘密でも、図利加害目的で使用・開示すれば7号の不正競争になる
保有者から正当に示された営業秘密でも、図利加害目的で使用・開示すれば7号の不正競争になる

8号の「営業秘密不正開示行為」は、括弧書きで「前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為」と定義されています。7号の目的による開示だけでなく、守秘義務違反の開示も含まれる点が枝になります。

10号:不正使用により生じた物の譲渡等

10号は、4号から9号までの行為のうち技術上の秘密を使用する行為(不正使用行為)により生じた物を、譲渡し、引き渡し、展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為です。ただし、その物を譲り受けた時に不正使用行為により生じた物であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者による譲渡等は除かれます。

10号の対象は技術上の秘密に限られます。顧客名簿のような営業上の情報を不正に使って作った物の譲渡は、10号の対象ではありません。

構造を一度に見る

系列 本人 取得時に悪意・重過失の転得者 取得後に悪意・重過失になった者
不正取得 4号 5号 6号
不正開示 7号 8号 9号
物の流通 10号(技術上の秘密の不正使用により生じた物)

この3行3列を頭に入れると、枝に書かれた事実関係から号を特定できます。「誰が」「どうやって入手したか」「いつ知ったか」の3点を事例から拾えば、該当する号は1つに決まります。

営業秘密の侵害類型(4号〜10号)の構造
営業秘密の侵害類型(4号〜10号)の構造

民事上の請求と消滅時効

差止請求(3条)と損害賠償(4条)

3条1項は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、侵害の停止又は予防を請求できるとします。2項は、その際に侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む)の廃棄や設備の除却などを請求できるとします。差止請求には故意・過失は要件になっていません。

4条は、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、損害を賠償する責任を負うとします。ただし書で、15条の規定により差止請求権が消滅した後にその営業秘密又は限定提供データを使用する行為によって生じた損害は除かれます。

使用行為の推定(5条の2)

5条の2は、技術上の秘密(生産方法その他政令で定める情報に係るものに限る)について4号・5号・8号の不正取得があった場合に、その行為者が技術上の秘密を使用したことが明らかな行為として政令で定める生産等をしたときは、不正競争として生産等をしたものと推定します。取得を立証できても使用の立証は難しいため、立証の負担を軽くする規定です。対象は技術上の秘密に限られます。

15条:差止請求権の消滅時効

15条1項は、2条1項4号から9号までの不正競争のうち、営業秘密を使用する行為に対する3条1項の差止請求権は、次の場合に時効によって消滅するとします。

  • 1号:その行為を行う者がその行為を継続する場合に、営業秘密保有者がその事実及びその行為を行う者を知った時から3年間行わないとき
  • 2号:その行為の開始の時から20年を経過したとき

対象は「使用する行為」に対する差止請求権だけです。取得行為や開示行為に対する差止請求権には、15条の時効はかかりません。また対象は3条1項の差止請求権であって、損害賠償請求権ではありません(損害賠償については、4条ただし書が15条による消滅後の使用による損害を除外しています)。

15条の消滅時効にかかるのは営業秘密を使用する行為に対する差止請求権だけで、知った時から3年・行為の開始から20年
15条の消滅時効にかかるのは営業秘密を使用する行為に対する差止請求権だけで、知った時から3年・行為の開始から20年

15条2項は、この規定を、限定提供データを使用する行為(11号〜16号)に対する差止請求権に準用しています。

項目 内容
対象となる請求権 3条1項の差止請求権
対象となる行為 4号〜9号のうち営業秘密を使用する行為(2項で限定提供データの使用行為に準用)
時効期間 保有者が事実と行為者を知った時から3年/行為の開始の時から20年
関連規定 4条ただし書(消滅後の使用による損害は賠償不要)、19条1項8号(消滅後の使用により生じた物の譲渡等は10号の適用除外)

適用除外(19条1項7号・8号)

19条1項は、3条から15条まで、21条及び22条の規定を適用しない行為を号ごとに定めています。営業秘密に関係するのは7号と8号です。

7号(善意取得者の保護):4号から9号までの不正競争について、取引によって営業秘密を取得した者で、取得した時に不正開示行為であることや不正取得行為・不正開示行為の介在を知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者が、その取引によって取得した権原の範囲内においてその営業秘密を使用し、又は開示する行為は適用除外です。

6号・9号は「取得した後に知った」者の使用・開示を不正競争としていますが、取引で善意・無重過失で取得した者は、後から事情を知っても、取引で得た権原の範囲内であれば使い続けられます。「取引によって」「権原の範囲内」という2つの限定が要件です。

取引で善意・無重過失で営業秘密を取得した者は、後で事情を知っても取引で得た権原の範囲内なら使い続けられる
取引で善意・無重過失で営業秘密を取得した者は、後で事情を知っても取引で得た権原の範囲内なら使い続けられる

8号:10号の不正競争について、15条1項により差止請求権が消滅した後にその営業秘密を使用する行為により生じた物の譲渡等は適用除外です。

限定提供データとの違い

平成30年の改正で、ビッグデータのように、特定の者に提供することを前提に蓄積・管理されているデータを保護する「限定提供データ」の規定が設けられました。2条7項は、限定提供データを「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)」と定義しています。

限定提供データは営業秘密を除く概念で、転得者の類型は悪意のみ、刑事罰の規定もない
限定提供データは営業秘密を除く概念で、転得者の類型は悪意のみ、刑事罰の規定もない

営業秘密との違いは、条文を並べると次のとおりです。

項目 営業秘密 限定提供データ
定義 2条6項 2条7項。営業秘密は除かれる
中心となる要件 秘密管理性・有用性・非公知性 業として特定の者に提供、電磁的方法による相当量の蓄積、管理
不正競争の号 4号〜10号 11号〜16号
転得者の主観 悪意又は重大な過失 悪意(「知って」)のみ
物の譲渡等の類型 あり(10号) なし
差止請求権の消滅時効 15条1項(3年・20年) 15条2項で準用
刑事罰 あり(21条) 21条に規定なし

限定提供データの転得者類型(12号・13号・15号・16号)は「知って」だけで、「重大な過失により知らないで」が書かれていません。また、取得後に悪意になった者の類型(13号・16号)は、行為が「開示する行為」に限られ、使用は含まれていません。14号は、保有者から示された者の図利加害目的の使用について「その限定提供データの管理に係る任務に違反して行うものに限る」という限定を付けています。営業秘密の7号にはこの限定はありません。

さらに19条1項9号は、限定提供データについて、取引により善意で取得した者が権原の範囲内で開示する行為(イ)と、相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データを取得・使用・開示する行為(ロ)を適用除外としています。

刑事罰の概要(21条)

営業秘密の侵害には、民事上の請求に加えて刑事罰があります(営業秘密侵害罪)。21条1項・2項は、それぞれの類型について10年以下の拘禁刑若しくは2,000万円以下の罰金、又はこれを併科すると定めています。

営業秘密侵害罪は図利加害目的が必要で、未遂も処罰され、告訴がなくても公訴を提起できる
営業秘密侵害罪は図利加害目的が必要で、未遂も処罰され、告訴がなくても公訴を提起できる
条項 主な類型 法定刑
21条1項 図利加害目的で、詐欺等行為又は管理侵害行為(窃取、施設への侵入、不正アクセス行為など)により取得、その使用・開示など 10年以下の拘禁刑若しくは2,000万円以下の罰金、又は併科
21条2項 営業秘密を示された者が、図利加害目的で任務に背いて領得、使用・開示など(役員・従業者、退職者を含む) 同上
21条4項・5項 日本国外で使用する目的での取得・領得、国外使用目的を知っての開示、国外での使用など 10年以下の拘禁刑若しくは3,000万円以下の罰金、又は併科

短答で押さえるポイントは次のとおりです。

  • 目的要件:刑事罰の各類型には「不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で」という図利加害目的が付いています。民事の4号が目的を問わないのと違います
  • 未遂:21条6項により、1項、2項(1号を除く)、4項(4号を除く)、5項(1号を除く)の罪の未遂は罰せられます
  • 親告罪ではない:21条7項が告訴を必要とするのは3項6号(秘密保持命令違反)の罪だけで、営業秘密侵害罪(1項・2項)は告訴がなくても公訴を提起できます
  • 国外犯:21条8項により、日本国内で事業を行う営業秘密保有者の営業秘密について、日本国外で1項・2項などの罪を犯した者にも適用されます
  • 法人の両罰:22条1項により、法人の業務に関して21条1項の違反行為をしたときは法人に5億円以下、21条4項の違反行為をしたときは10億円以下の罰金刑が科されます
  • 没収:21条13項により、犯罪行為により生じた財産などを没収できます

限定提供データの不正取得等を処罰する規定は、21条には置かれていません。「限定提供データを不正の手段により取得した者は、刑事罰の対象となる」という枝は誤りです。

短答で狙われる型

枝の事例から入手の経路と主観を拾えば号は1つに決まり、盗み出せば4号、盗まれた物と知って買えば5号
枝の事例から入手の経路と主観を拾えば号は1つに決まり、盗み出せば4号、盗まれた物と知って買えば5号

第1の型:3要件の欠落。事例で「秘密である旨の表示もアクセス制限もなかった」「すでに業界誌に掲載されていた」など、3要件のどれかを欠く事情を示し、それでも不正競争になるかを問います。3要件を欠けば営業秘密ではないので、4号〜10号は成立しません。

第2の型:号の特定。「従業者が在職中に正当に示された顧客名簿を、転職先で使用した」は7号(図利加害目的が要件)、「産業スパイが盗み出した」は4号、「盗まれたものと知りながら買い取った」は5号です。入口と主観で号を決めます。

第3の型:主観の程度と時期。営業秘密の転得者類型は「悪意又は重過失」、限定提供データは「悪意」のみです。「取得時に善意・無重過失でも、取得後に悪意となれば使用は6号・9号に当たる」「ただし取引で取得した者は19条1項7号で権原の範囲内なら適用除外」という2段の判断を入れ替えて問います。

第4の型:15条の対象。消滅時効にかかるのは「使用する行為」に対する「差止請求権」だけです。「開示行為に対する差止請求権も、知った時から3年で時効消滅する」「損害賠償請求権が15条で消滅する」は誤りです。

第5の型:刑事罰の有無と目的要件。営業秘密侵害罪は図利加害目的が必要で、非親告罪、未遂も処罰されます。限定提供データには刑事罰がありません。

学習の進め方

営業秘密は、まず2条1項4号〜10号を条文で読み、上の3行3列の表を自分で書けるようにするのが先です。表が書ければ、事例問題の枝は「入口」「主観」「時期」を拾うだけで号が決まります。

次に、15条、19条1項7号・8号、4条ただし書を読み、「差止請求権が消えた後はどうなるか」「善意で買った者はどうなるか」を一続きで整理します。刑事罰は法定刑の数字よりも、図利加害目的・未遂・非親告罪・限定提供データに刑事罰なし、という構造を優先して覚えます。

限定提供データとの比較は、営業秘密を一通り覚えた後に、表の「違い」の行だけを追加で覚えると効率的です。著作権法側の頻出論点である権利制限規定は「著作権法の権利制限規定一覧」で整理しています。過去問の枝を号ごとに記録する方法は「弁理士短答式の過去問は「肢別」で回す」を参考にしてください。

まとめ

  • 営業秘密は、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を満たす技術上又は営業上の情報(2条6項)
  • 侵害類型は、不正取得の系列(4号〜6号)と、保有者から示された後の不正開示の系列(7号〜9号)、技術上の秘密の不正使用により生じた物の譲渡等(10号)
  • 7号は図利加害目的が要件。転得者類型は悪意・重過失で、取得時(5号・8号)と取得後(6号・9号)に分かれる
  • 15条:営業秘密の使用行為に対する差止請求権は、知った時から3年・行為開始から20年で時効消滅。限定提供データに準用
  • 19条1項7号:取引により善意・無重過失で取得した者は、権原の範囲内で使用・開示できる
  • 限定提供データは営業秘密を除く概念で、転得者は悪意のみ、10号相当の類型なし、刑事罰なし
  • 営業秘密侵害罪は図利加害目的が必要。10年以下の拘禁刑・2,000万円以下の罰金(国外関係は3,000万円以下)、未遂処罰あり、非親告罪

この科目全体の絞り込み方と目標点は「著作権法・不正競争防止法の短答対策」を、法域別の足切りは「短答式の合格基準と科目別足切り」を参照してください。

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