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著作者人格権とは?公表権・氏名表示権・同一性保持権と例外の整理

著作権法・不正競争防止法 読了 約11分

弁理士試験短答式の著作者人格権のまとめ。18条の公表権と同意の推定、19条の氏名表示権と省略、20条の同一性保持権と2項の改変、59条の一身専属性、60条・116条の死後の保護、113条11項のみなし侵害、著作権との違い、実演家人格権(90条の2・90条の3)との比較を整理します。

著作者人格権は、短答式の著作権・不正競争防止法10問のなかで、権利制限規定と並んで繰り返し出題される分野です。権利は公表権・氏名表示権・同一性保持権の3つしかありませんが、それぞれに「同意したものと推定する場合」「省略できる場合」「適用しない改変」といった例外が付いており、さらに一身専属性、死後の保護、みなし侵害、実演家人格権との違いまで、枝の材料が豊富にそろっています。

結論から言うと、著作者人格権の枝は「どの権利の話か(18条・19条・20条)」「例外に当たるか(推定・省略・2項各号)」「誰がいつまで主張できるか(59条・60条・116条)」「実演家人格権ならどこが違うか(公表権がない・名誉声望の要件)」の4段で読むと整理できます。著作権(財産権)の知識をそのまま持ち込むと誤る論点が多いので、「譲渡できない」「相続されない」「死後も60条で保護」という3点を軸に置きます。

この記事では、3つの権利の内容と例外、一身専属性と死後の保護、みなし侵害と救済、実演家人格権との比較、短答で狙われる型の順に整理します。条文はe-Gov法令検索の著作権法原文(令和8年6月24日施行分までを反映した現行条文)で確認しています。科目全体の優先順位は「著作権法・不正競争防止法の短答対策」で扱っています。

著作者人格権の全体像

17条1項は、著作者は18条1項・19条1項・20条1項に規定する権利(著作者人格権)と、21条から28条までに規定する権利(著作権)を享有すると定めています。2項により、どちらの享有にも方式の履行は要りません。

著作者人格権は、著作者の人格的な利益を守る権利で、財産権である著作権とは性質が違います。短答では、この違いを入れ替えた枝が作られます。

項目 著作者人格権 著作権(財産権)
内容 公表権・氏名表示権・同一性保持権(18条〜20条) 複製権・公衆送信権など(21条〜28条)
譲渡 できない(59条) 全部又は一部を譲渡できる(61条1項)
相続 されない(一身専属。民法896条ただし書) される
存続 著作者の一身に専属。死後は60条で保護 原則として著作者の死後70年(51条2項)
権利制限規定との関係 影響を受けない(50条) 30条〜47条の7で制限される
刑事罰(侵害) 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科(119条2項1号) 10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金又は併科(119条1項)
著作者人格権の3つの権利と主な例外
著作者人格権の3つの権利と主な例外

公表権(18条)

権利の内容

18条1項は、著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利を有するとします。括弧書きで「その同意を得ないで公表された著作物を含む」とされているので、無断で公表された著作物は、なお未公表の著作物として扱われます。第三者が勝手に公表した後でも、著作者は公表権を主張できます。

1項後段により、その著作物を原著作物とする二次的著作物についても同様です。未公表の小説を無断で翻訳して公表する行為は、原著作物の著作者の公表権を侵害します。

同意したものと推定される場合(2項)

18条2項は、次の場合に、著作者が一定の行為に同意したものと推定します。

号 場合 同意したと推定される行為
1号 未公表の著作物の著作権を譲渡した場合 著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること
2号 未公表の美術の著作物又は写真の著作物の原作品を譲渡した場合 原作品による展示の方法で公衆に提示すること
3号 29条により映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合 著作権の行使により公衆に提供し、又は提示すること

2項は「推定」なので、反証があれば覆ります。これに対し3項は、未公表の著作物を行政機関、独立行政法人等、地方公共団体、国立公文書館等に提供した場合(開示決定の時までに別段の意思表示をした場合などを除く)に、情報公開法等による公衆への提供・提示に同意したものとみなす規定です。4項は、情報公開法等の一定の場合に1項を適用しないとしています。短答では「推定」と「みなす」の入れ替えに注意します。

18条2項は同意したものと推定する規定で反証があれば覆るが、3項は同意したものとみなす規定
18条2項は同意したものと推定する規定で反証があれば覆るが、3項は同意したものとみなす規定

氏名表示権(19条)

権利の内容

19条1項は、著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有するとします。表示しないことを選ぶ権利も含まれる点が大切です。二次的著作物の公衆への提供・提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても同様です。

利用者が表示できる方法(2項)

19条2項は、著作物を利用する者は、著作者の別段の意思表示がない限り、その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示できるとします。ペンネームで発表された作品は、そのペンネームで表示すれば足ります。

省略できる場合(3項)

19条3項は、著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略できるとします。要件は2つで、両方を満たす必要があります。この「かつ」の構造は、後で見る実演家の氏名表示権(90条の2第3項)の「又は」と対比して問われます。

4項は、情報公開法等により行政機関の長などが著作物を公衆に提供・提示する場合で、既に著作者が表示しているところに従って表示するときなどに、1項を適用しないとしています。

著作者名の表示を省略できるのは、利益を害するおそれがなく、かつ公正な慣行に反しない場合に限られる
著作者名の表示を省略できるのは、利益を害するおそれがなく、かつ公正な慣行に反しない場合に限られる

同一性保持権(20条)

権利の内容

20条1項は、著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないとします。題号(タイトル)も対象であること、要件が「意に反して」であって「名誉又は声望を害する」ではないことが、短答の定番です。

適用しない改変(2項)

20条2項は、次の改変には1項を適用しないとします。

号 改変
1号 33条1項(4項で準用する場合を含む)、33条の2第1項、33条の3第1項、34条1項により著作物を利用する場合の、用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
2号 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
3号 特定の電子計算機では実行し得ないプログラムの著作物を実行し得るようにするため、又はより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
4号 前3号のほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

1号は教科用図書等への掲載など、学校教育に関する規定に限られます。35条(学校その他の教育機関における複製等)は1号に挙げられていないので、「35条により複製する場合の学校教育の目的上やむを得ない改変は、20条2項1号により同一性保持権の侵害とならない」とする枝は、条文の組立てとずれます。2号は建築物に限られ、3号はプログラムの著作物に限られます。

20条2項は、学校教育、建築物の増改築、プログラム、やむを得ない改変の4つについて同一性保持権を適用しない
20条2項は、学校教育、建築物の増改築、プログラム、やむを得ない改変の4つについて同一性保持権を適用しない

権利制限規定との関係(50条)

50条は、権利制限規定(第2章第3節第5款)は著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならないとします。32条の引用として適法でも、引用の際に原文を改変すれば同一性保持権の問題になり、出所の明示の際に著作者名を誤れば氏名表示権の問題になります。権利制限規定の要件は「著作権法の権利制限規定一覧」で整理しています。

一身専属性と死後の保護

譲渡できない(59条)

59条は、著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡することができないとします。著作権を譲渡しても、著作者人格権は著作者に残ります。一身に専属する権利は相続の対象にもなりません(民法896条ただし書)。

法人等が著作者人格権を持つのは、15条の職務著作によって法人等が著作者になる場合です。要件は「職務著作(著作権法15条)の要件」で扱っています。

著作権を譲渡しても、一身に専属する著作者人格権は譲渡できず、著作者に残る
著作権を譲渡しても、一身に専属する著作者人格権は譲渡できず、著作者に残る

共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ行使できず(64条1項)、各著作者は信義に反して合意の成立を妨げることができません(2項)。

著作者が存しなくなった後の保護(60条)

60条は、著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、著作者が存しなくなった後においても、著作者が存しているとしたならば著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないとします。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他により、その行為が著作者の意を害しないと認められる場合は除かれます。

実演家についての101条の3が「死後」と書くのに対し、60条は「存しなくなつた後」と書いており、法人等が著作者である場合も視野に入れた表現です。60条そのものには期間の定めがありません。

遺族による請求(116条)

著作者の死後、遺族が請求できるのは差止めと名誉回復等の措置で、損害賠償は含まれない
著作者の死後、遺族が請求できるのは差止めと名誉回復等の措置で、損害賠償は含まれない

116条1項は、著作者の死後、その遺族が、60条に違反する行為をする者又はするおそれがある者に対し112条の差止請求を、故意又は過失により著作者人格権を侵害する行為又は60条に違反する行為をした者に対し115条の名誉回復等の措置の請求をすることができるとします。

  • 遺族の範囲:死亡した著作者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹(1項括弧書)
  • 請求できる順位:この順序。ただし著作者が遺言で別に定めたときはその順序(2項)
  • 遺言による指定:著作者は遺言で、遺族に代えて請求できる者を指定できる。指定を受けた者は、著作者の死亡の日の属する年の翌年から起算して70年を経過した後(その時に遺族が存する場合は、存しなくなった後)は請求できない(3項)

116条1項は損害賠償の請求を挙げていません。遺族ができるのは差止めと名誉回復等の措置です。

刑事罰(120条)

60条又は101条の3(実演家の死後の保護)に違反した者は、500万円以下の罰金に処せられます(120条)。123条1項が告訴を要するとする罪の中に120条は挙げられていないので、この罪は告訴がなくても公訴を提起できます。これに対し、生存中の著作者人格権侵害の罪(119条2項1号)は、123条1項により告訴がなければ公訴を提起できません。

みなし侵害と救済

名誉又は声望を害する方法による利用(113条11項)

著作物を改変していなくても、著作者の名誉又は声望を害する方法で利用すれば著作者人格権の侵害とみなされる
著作物を改変していなくても、著作者の名誉又は声望を害する方法で利用すれば著作者人格権の侵害とみなされる

113条11項は、著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、著作者人格権を侵害する行為とみなします。著作物そのものを改変していなくても、利用の方法によって著作者の名誉・声望が害される場合を捉える規定です。18条〜20条のどれにも当たらない利用でも、この項で侵害とみなされることがあります。

113条1項(国内頒布目的の輸入や、情を知っての頒布など)も、著作者人格権を侵害する行為によって作成された物を対象に含んでいます。

民事上の請求

  • 差止請求(112条):著作者は、著作者人格権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止又は予防を請求できる。故意・過失は要件になっていない
  • 名誉回復等の措置(115条):故意又は過失により著作者人格権を侵害した者に対し、損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、著作者であることを確保し、又は訂正その他名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求できる

実演家人格権との比較

実演家にも人格権があります(89条1項・6項により、実演家人格権は著作隣接権には含まれません)。ただし、著作者人格権と同じではありません。

項目 著作者人格権 実演家人格権
公表権 あり(18条) なし
氏名表示権 19条 90条の2
表示の省略 利益を害するおそれがないと認められるとき、かつ公正な慣行に反しない限り(19条3項) 利益を害するおそれがないと認められるとき又は公正な慣行に反しないと認められるとき(90条の2第3項)
同一性保持権 意に反する改変を受けない(20条1項) 自己の名誉又は声望を害する改変を受けない(90条の3第1項)
同一性保持権の例外 20条2項1号〜4号 実演の性質並びに利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変又は公正な慣行に反しない改変(90条の3第2項)
一身専属性 59条 101条の2
死後の保護 60条 101条の3
著作者人格権と実演家人格権の違い
著作者人格権と実演家人格権の違い

実演家の同一性保持権は「名誉又は声望を害する」改変に限られ、省略や改変の例外も「又は」でつながるので、著作者人格権より保護の範囲が狭いと整理できます。「実演家は、その実演でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利を有する」という枝は、公表権がないので誤りです。

短答の枝ではこう問われる

本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。

例題 著作者人格権に関し、正しいものはどれか。

  • イ 著作者の同意を得ないで公表された著作物は、公表された著作物となるので、著作者は、その著作物について公表権を行使することができない。
  • ロ 著作物の利用者は、著作者名の表示が著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反する場合であっても、著作者名の表示を省略することができる。
  • ハ 同一性保持権は、著作者の名誉又は声望を害する改変を受けない権利であり、著作者の名誉又は声望を害しない改変には及ばない。
  • ニ 著作者が存しなくなった後においても、著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。
  • ホ 著作者は、その著作者人格権を他人に譲渡することができるが、相続の対象とはならない。

正解はニです(60条本文)。イは18条1項括弧書により、無断で公表された著作物は未公表の著作物に含まれます。ロは19条3項の2つの要件(利益を害するおそれがない、かつ公正な慣行に反しない)の片方を落としています。ハは20条1項の「意に反して」を、実演家人格権(90条の3第1項)の要件と入れ替えています。ホは59条により譲渡もできません。

このほか、次のような入れ替えも出ます。

  • 「著作者の遺族は、60条に違反する行為をした者に対し、損害の賠償を請求できる」→ 誤り。116条1項は112条(差止め)と115条(名誉回復等の措置)の請求に限る
  • 「遺族の順位は、配偶者、父母、子の順」→ 誤り。配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順(遺言で別に定めることができる)
  • 「32条の要件を満たす引用なら、著作者人格権の侵害にはならない」→ 誤り。50条

学習の進め方

著作者人格権は、まず18条・19条・20条の1項だけを読み、「未公表(無断公表を含む)」「実名・変名・非表示」「著作物及び題号、意に反して」というキーワードに線を引きます。次に例外の項を読み、推定(18条2項)・省略(19条3項)・適用しない改変(20条2項)を上の表の形で書き出します。

そのうえで、59条・60条・116条・120条を一続きで読み、「生きている間は本人、死後は60条と遺族の請求、刑事は500万円以下の罰金で非親告罪」という流れを作ります。実演家人格権は、比較表の「違う行」だけを覚えれば足ります。条文を表に落として覚える方法は「弁理士試験の条文の覚え方」も参考になります。

まとめ

  • 著作者人格権は公表権(18条)・氏名表示権(19条)・同一性保持権(20条)の3つ。方式は不要(17条2項)
  • 公表権の対象には無断で公表された著作物を含む。著作権・原作品の譲渡、29条の帰属の場合は同意を推定(18条2項)
  • 氏名表示権には「表示しない」権利も含む。省略は、利益を害するおそれがなく、かつ公正な慣行に反しない場合に限る(19条3項)
  • 同一性保持権は著作物と題号について、意に反する改変を受けない権利。2項1号〜4号の改変は適用除外
  • 一身専属で譲渡できず(59条)、相続もされない。死後は60条で保護し、遺族(配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順)が差止めと名誉回復等の措置を請求できる(116条)
  • 名誉又は声望を害する方法による利用は侵害とみなす(113条11項)。権利制限規定は著作者人格権に影響しない(50条)
  • 実演家人格権は公表権がなく、同一性保持権は名誉又は声望を害する改変に限られる

法域別の足切りとこの科目の目標点は「短答式の合格基準と科目別足切り」で確認してください。

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