TRIPS協定の短答対策|最恵国待遇と保護期間の数字を条文で整理
弁理士試験短答式のTRIPS協定のまとめ。内国民待遇(3条)と最恵国待遇(4条)、パリ条約・ベルヌ条約の遵守(2条・9条)、特許20年・意匠10年・商標7年などの最低保護期間、地理的表示と開示されていない情報(39条)、エンフォースメント、短答で問われる数字を条文に沿って整理します。
TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)は、短答式の条約10問のうち1〜2問程度を占めます。出題は少ないものの論点がかなり決まっており、数字と「できる/しなければならない」の区別を押さえれば得点しやすい条約です。
結論から言うと、TRIPSの枝は「基本原則(内国民待遇3条・最恵国待遇4条とその例外)」「既存条約との関係(パリ条約1条〜12条・19条の遵守、ベルヌ条約1条〜21条の遵守と6条の2の除外)」「権利ごとの最低基準と数字(特許20年・意匠10年・商標7年・不使用3年)」「義務か任意か(加盟国は〜することができる/〜する)」の4点で読むと整理できます。TRIPSは「最低限この水準は守れ」という協定なので、加盟国がそれより厚く保護するのは自由(1条(1))という構造も、枝の判断に効きます。
この記事では、協定の位置付け、基本原則、既存条約との関係、権利ごとの最低基準、エンフォースメント、経過措置などの順に整理し、最後に短答で問われる数字と枝の型をまとめます。協定の本文は特許庁が公表している和文(特許庁「TRIPS協定」目次・本文の各ページ。2017年1月31日更新版)によっています。条約全体の中でのTRIPSの位置付けは「弁理士短答の条約対策」で扱っています。
TRIPS協定の位置付け
TRIPS協定は、世界貿易機関(WTO)を設立する協定の一部として作られた協定です。特許庁の和文によれば、平成7年1月1日に発効し、平成29年1月23日に改正されています。現行の和文には、医薬品の輸出のための強制実施許諾に関する31条の2と附属書が含まれています。本文は7部73条と附属書からなり、短答で問われるのは主に第1部(一般規定及び基本原則。1条〜8条)、第2部(権利ごとの基準。9条〜40条)、第3部(知的所有権の行使。41条〜61条)です。

1条(1)は、加盟国はこの協定を実施すること、そして協定の規定に反しないことを条件として、協定が要求するよりも広範な保護を国内法令で実施することができるが、そのような義務を負わないことを定めています。TRIPSが定めるのは最低基準です。日本の特許権の存続期間が出願の日から20年であるのは33条の最低基準と同じ水準で、意匠権が出願の日から25年であるのは26条(3)の10年を上回る保護、という関係になります。
基本原則:内国民待遇と最恵国待遇
内国民待遇(3条)
3条(1)は、各加盟国は、知的所有権の保護に関し、自国民に与える待遇よりも不利でない待遇を他の加盟国の国民に与えるとします。ただし、パリ条約(ストックホルム改正条約)、ベルヌ条約(パリ改正条約)、ローマ条約及び集積回路についての知的所有権に関する条約に既に規定する例外については、この限りでありません。また、実演家、レコード製作者及び放送機関については、この協定に規定する権利についてのみ適用されます。
3条(2)は、司法上及び行政上の手続(送達の住所の選定又は代理人の選任を含む)に関し、法令の遵守の確保に必要で、貿易に対する偽装された制限とならない場合に限って、(1)の例外を援用できるとします。
最恵国待遇(4条)
4条は、知的所有権の保護に関し、加盟国が他の国の国民に与える利益、特典、特権又は免除は、他のすべての加盟国の国民に対し即時かつ無条件に与えられるとします。内国民待遇が「自国民との比較」であるのに対し、最恵国待遇は「他の外国の国民との比較」です。パリ条約には最恵国待遇の規定がなく、TRIPSに特有の原則として問われます。

4条は、次の利益等を最恵国待遇の義務から除外しています。
- (a) 一般的な性格を有し、知的所有権の保護に特に限定されない司法共助又は法の執行に関する国際協定に基づくもの
- (b) 内国民待遇ではなく他の国で与えられる待遇に基づいて待遇を与えることを認めるベルヌ条約又はローマ条約の規定に従って与えられるもの
- (c) この協定に規定していない実演家、レコード製作者及び放送機関の権利に関するもの
- (d) 世界貿易機関協定の効力発生前に効力を生じた知的所有権の保護に関する国際協定に基づくもの(貿易関連知的所有権理事会に通報され、他の加盟国の国民に対し恣意的又は不当な差別とならないことが条件)
5条・6条
5条は、3条と4条の義務は、知的所有権の取得又は維持に関してWIPOの主催の下で締結された多数国間協定に規定する手続については適用しないとします。6条は、この協定に係る紛争解決においては、3条と4条を除き、協定のいかなる規定も知的所有権の消尽に関する問題を取り扱うために用いてはならないとします。
パリ条約・ベルヌ条約との関係(2条・9条)
TRIPSは、既存の条約を取り込んだうえで保護を上乗せする構造になっています。

- 2条(1):加盟国は、第2部、第3部及び第4部の規定について、パリ条約(ストックホルム改正条約)の1条から12条まで及び19条の規定を遵守する
- 2条(2):第1部から第4部までの規定は、パリ条約、ベルヌ条約、ローマ条約及び集積回路についての知的所有権に関する条約に基づく既存の義務であって加盟国が相互に負うことのあるものを免れさせるものではない
- 9条(1):加盟国は、ベルヌ条約(パリ改正条約)の1条から21条まで及び附属書の規定を遵守する。ただし、同条約6条の2(著作者人格権)に基づいて与えられる権利又はこれから派生する権利については、この協定に基づく権利又は義務を有さない
- 9条(2):著作権の保護は、表現されたものに及ぶものとし、思想、手続、運用方法又は数学的概念自体には及んではならない
パリ条約やベルヌ条約に加盟していないWTO加盟国も、TRIPSを通じてこれらの実体規定を守ることになります。9条(1)ただし書により、著作者人格権はTRIPSの保護の対象から外れています。日本の著作権法では著作者人格権が手厚く保護されていますが(「著作者人格権の3つの権利と例外」参照)、それはTRIPSの義務ではありません。
ほかに、パリ条約の規定を準用する条文として、16条(2)・(3)(パリ条約6条の2の周知商標の保護をサービスと、非類似の商品・サービスに準用)と、62条(3)(パリ条約4条の優先権をサービス・マークに準用)があります。
権利ごとの最低基準
著作権及び関連する権利(9条〜14条)
- 10条(1):コンピュータ・プログラムは、ソース・コードかオブジェクト・コードかを問わず、ベルヌ条約に定める文学的著作物として保護される
- 11条:少なくともコンピュータ・プログラムと映画の著作物について、商業的貸与を許諾し又は禁止する権利(貸与権)を与える
- 12条:保護期間が自然人の生存期間に基づき計算されない場合(写真の著作物と応用美術の著作物を除く)は、権利者の許諾を得た公表の年の終わりから少なくとも50年。製作から50年以内に許諾を得た公表がなければ、製作の年の終わりから少なくとも50年
- 14条(5):実演家とレコード製作者の保護期間は、固定又は実演が行われた年の終わりから少なくとも50年。放送機関は、放送が行われた年の終わりから少なくとも20年
商標(15条〜21条)

- 15条(1):識別できる標識は商標とすることができる。加盟国は、使用によって獲得された識別性を登録要件とすることができ、視覚によって認識できることを登録の条件とすることができる
- 15条(3):使用を登録要件とすることはできるが、実際の使用を出願の条件としてはならない。意図された使用が出願日から3年の期間満了前に行われなかったことのみを理由として出願を拒絶してはならない
- 16条(1):同一の商品又はサービスについて同一の標識を使用する場合は、混同を生じさせるおそれがあると推定される
- 18条:最初の登録及び登録の更新の存続期間は、少なくとも7年。何回でも更新できる
- 19条(1):使用が登録維持の要件とされる場合、登録は、少なくとも3年間継続して使用しなかった後においてのみ取り消すことができる。使用に対する障害に基づく正当な理由がある場合を除く
- 21条:商標の強制使用許諾は認められない。登録された商標の権利者は、事業の移転が行われるかどうかを問わず、商標を譲渡する権利を有する
地理的表示(22条〜24条)
22条(2)の一般的な保護は、商品の地理的原産地について公衆を誤認させるような使用などを防止するものです。23条はぶどう酒と蒸留酒に追加的保護を与え、真正の原産地が表示される場合や、「種類」「型」「様式」「模造品」等の表現を伴う場合でも、その地の産でないものへの使用を防止する法的手段を確保します。
意匠(25条・26条)
- 25条:独自に創作された新規性又は独創性のある意匠を保護する。繊維の意匠の保護は、意匠法又は著作権法のどちらで履行してもよい
- 26条(3):保護期間は少なくとも10年
特許(27条〜34条)
- 27条(1):新規性、進歩性及び産業上の利用可能性のあるすべての技術分野の発明(物か方法かを問わない)に特許を与える。発明地、技術分野、物が輸入されたものか国内で生産されたものかについて差別しない
- 27条(2)・(3):公の秩序又は善良の風俗を守るために必要な発明、人又は動物の治療のための診断方法・治療方法・外科的方法、微生物以外の動植物などを、特許の対象から除外することができる。植物の品種は、特許若しくは効果的な特別の制度又はその組合せで保護する
- 31条:特許権者の許諾を得ていない他の使用(強制実施許諾など)の条件。事前の許諾を得る努力(国家緊急事態等では免除できる)、非排他的、主として国内市場への供給、適当な報酬など
- 33条:保護期間は、出願日から計算して20年の期間が経過する前に終了してはならない
集積回路の回路配置(35条〜38条)と開示されていない情報(39条)
38条は、回路配置の保護期間を、登録を保護の条件とする加盟国では登録出願の日又は世界における最初の商業的利用の日から10年の期間の満了前に終了してはならないとし、登録を要しない加盟国では最初の商業的利用の日から少なくとも10年とします。いずれの場合も、創作後15年で保護が消滅すると定めることができます(38条(3))。
39条は、パリ条約10条の2の不正競争からの有効な保護を確保するため、開示されていない情報を保護します。39条(2)の要件は、(a)一般的に知られておらず又は容易に知ることができないという意味で秘密であること、(b)秘密であることにより商業的価値があること、(c)秘密として保持するための合理的な措置がとられていること、の3つです。日本の不正競争防止法の営業秘密の3要件(非公知性・有用性・秘密管理性)と対応しています(「営業秘密の3要件と侵害類型」参照)。
エンフォースメント(第3部)
第3部は、権利の行使手続について加盟国に義務を課しています。「司法当局は〜を命じる権限を有する」という書き方が多いので、義務と任意の区別に注意します。

| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 44条 | 差止命令を命じる権限 |
| 45条 | 侵害を知っていたか知ることができる合理的な理由を有していた侵害者に対し、損害賠償を命じる権限 |
| 46条 | 侵害物品を補償なく流通経路から排除し、又は廃棄する権限。不正商標商品は、例外的な場合を除き、商標の単なる除去で流通させてはならない |
| 50条 | 暫定措置。他方の当事者に意見を述べる機会を与えずにとることもできる(50条(2))。本案手続が合理的な期間(定めがなければ20執務日又は31日のうちいずれか長い期間)内に開始されなければ、取消し又は失効 |
| 51条 | 国境措置。不正商標商品又は著作権侵害物品の輸入について、税関の解放停止を申し立てる手続を採用する。その他の侵害物品や輸出への拡張は「できる」 |
| 55条 | 解放停止の通知の送達から10執務日(適当な場合は10執務日延長可)以内に本案手続の開始等が通報されなければ、物品は解放される |
| 61条 | 少なくとも故意による商業的規模の商標の不正使用及び著作物の違法な複製について、刑事上の手続及び刑罰を定める |
51条の注は、権利者によって若しくはその承諾を得て他の国の市場に提供された物品の輸入と、通過中の物品については、この手続を適用する義務は生じないと了解する、としています。
経過措置(65条・66条)
- 65条:加盟国は、世界貿易機関協定の効力発生の日の後1年の期間が満了する前にはこの協定を適用する義務を負わない。開発途上加盟国は更に4年延期でき(3条・4条・5条を除く)、物質特許の保護を拡大する義務を負う技術分野については更に5年延期できる
- 66条(1):後発開発途上加盟国は、65条(1)の適用日から10年の期間、協定(3条・4条・5条を除く)の適用を要求されない。理事会は正当な理由のある要請に基づき延長を認める
開発途上加盟国と後発開発途上加盟国の延期でも、3条・4条・5条(内国民待遇・最恵国待遇など)は除かれています。「基本原則は延期できない」という点は枝になりやすい部分です。
短答で問われる数字
| 数字 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 20年 | 33条 | 特許の保護期間は出願日から20年経過前に終了してはならない |
| 10年 | 26条(3) | 意匠の保護期間は少なくとも10年 |
| 7年 | 18条 | 商標の最初の登録・更新の存続期間は少なくとも7年。更新は何回でも |
| 3年 | 19条(1) | 不使用取消は少なくとも3年間継続した不使用の後 |
| 3年 | 15条(3) | 意図された使用が出願日から3年内にないことのみを理由に拒絶できない |
| 50年 | 12条・14条(5) | 生存期間に基づかない著作物、実演家・レコード製作者 |
| 20年 | 14条(5) | 放送機関 |
| 10年・15年 | 38条 | 回路配置は10年。創作後15年で消滅させることができる |
| 1年・4年・5年・10年 | 65条・66条 | 一般の適用猶予、開発途上加盟国の延期、物質特許の延期、後発開発途上加盟国 |
特許の20年は「出願日から」、実演家・レコードの50年は「固定又は実演が行われた年の終わりから」、放送の20年は「放送が行われた年の終わりから」と、起点がそれぞれ違います。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、協定の条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。

例題 TRIPS協定に関し、正しいものはどれか。
- イ 加盟国は、知的所有権の保護に関し、他の国の国民に与える利益を、他のすべての加盟国の国民に対し即時かつ無条件に与えなければならないが、この義務はパリ条約にも規定されている。
- ロ 加盟国は、ベルヌ条約第6条の2の規定に基づいて与えられる権利について、この協定に基づく義務を負う。
- ハ 商標の最初の登録及び登録の更新の存続期間は、少なくとも10年としなければならない。
- ニ 特許の保護期間は、出願日から計算して20年の期間が経過する前に終了してはならない。
- ホ 加盟国は、商標の強制使用許諾を認めることができる。
正解はニです(33条)。イの最恵国待遇(4条)はパリ条約にはありません。ロは9条(1)ただし書により、6条の2(著作者人格権)に基づく権利については協定上の権利・義務を有しません。ハは18条により少なくとも7年です。ホは21条で、商標の強制使用許諾は認められないとされています。
このほか、次のような入れ替えも出ます。
- 「加盟国は、協定が要求する保護よりも広範な保護を与えてはならない」→ 誤り。1条(1)により与えることはできる(義務ではない)
- 「加盟国は、人の治療方法を特許の対象から除外しなければならない」→ 誤り。27条(3)は除外「することができる」
- 「国境措置は、特許権を侵害する物品の輸入について必ず採用しなければならない」→ 誤り。51条の義務は不正商標商品と著作権侵害物品。その他は「できる」
- 「開発途上加盟国は、最恵国待遇の適用も延期できる」→ 誤り。65条(2)は3条・4条・5条を除く
学習の進め方
TRIPSは、まず第1部(1条〜8条)を条文で読み、3条・4条とその例外、2条(1)・9条(1)の条数(パリ1条〜12条・19条、ベルヌ1条〜21条、6条の2の除外)を固めます。ここだけで、TRIPSの枝のかなりの部分に対応できます。
次に、数字の表を空欄にして埋められるようにします。特許20年・意匠10年・商標7年・不使用3年を最優先にし、その他の数字は一読して見覚えがある程度で構いません。27条(3)や51条のように「できる」と「しなければならない」が混ざる条文には線を引いておきます。
国内法との対応を意識すると覚えやすくなります。日本の特許権の存続期間(出願の日から20年)は33条の水準と同じで、不正競争防止法の営業秘密の3要件は39条(2)に対応します。条約全体の学習順と、パリ条約・PCTとの比重は「弁理士短答の条約対策」を、法域別の足切りは「短答式の合格基準と科目別足切り」を参照してください。
まとめ
- TRIPSは最低基準の協定。加盟国はより広範な保護を与えることができるが義務ではない(1条(1))
- 内国民待遇(3条)は自国民との比較、最恵国待遇(4条)は他の外国の国民との比較で、最恵国待遇はパリ条約にない原則
- パリ条約1条〜12条・19条、ベルヌ条約1条〜21条と附属書を遵守。ただしベルヌ条約6条の2(著作者人格権)は対象外(2条(1)・9条(1))
- 特許は出願日から20年(33条)、意匠は少なくとも10年(26条(3))、商標は少なくとも7年で何回でも更新(18条)、不使用取消は3年継続後(19条(1))、商標の強制使用許諾は認められない(21条)
- 国境措置の義務は不正商標商品と著作権侵害物品の輸入。刑事罰の義務は故意による商業的規模の商標の不正使用と著作物の違法な複製
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