ハーグ協定と国際意匠登録出願|意匠法60条の3以下を整理
弁理士試験短答式のハーグ協定ジュネーブ改正協定のまとめ。国際出願から国際登録、国際公表、拒絶の通報期間、5年ごとの更新と存続期間までの流れと、意匠法60条の3〜60条の23の特例(秘密意匠の不適用、補償金請求権、登録料に代わる個別指定手数料など)を整理します。
ハーグ協定は、意匠の国際登録の制度です。条約の10問の中ではパリ条約やPCTほど出題数は多くありませんが、意匠法に「ジュネーブ改正協定に基づく特例」として60条の3から60条の23までのまとまった章があるため、条約の問題としても、意匠法の問題としても枝が作られます。特許のPCTや商標のマドプロと仕組みが似ている部分と違う部分があり、そこが入替えの材料になります。
結論から言うと、ハーグの枝は「国際登録の日が日本の出願日になる」「国際公表がされて初めて日本の出願とみなされる」「国内の意匠登録出願と違う特例がどこにあるか」の3点で読むと整理できます。日本を指定した国際出願は、国際公表がされたものが、国際登録の日にされた意匠登録出願とみなされます(意匠法60条の6)。その出願には秘密意匠の請求ができず(60条の9)、国際公表後の警告による補償金請求権があり(60条の12)、登録料の代わりに個別指定手数料を国際事務局に納めます(60条の21)。
この記事では、協定の全体の流れ、協定の主要な条文、日本から出すときの特例(国際登録出願)、日本を指定されたときの特例(国際意匠登録出願)、存続期間と更新、短答で狙われる型の順に整理します。協定は世界知的所有権機関(WIPO)が公表する英文正文と共通規則で、意匠法はe-Gov法令検索の原文で確認しています。条約10問の中での位置付けは「条約の短答対策」で扱っています。
協定の全体像
ジュネーブ改正協定と日本
ハーグ協定は複数の改正協定から成り、現在の中心は平成11年に採択されたジュネーブ改正協定です。特許庁の「ハーグ協定のジュネーブ改正協定の概要」(2022年1月4日更新)によれば、ジュネーブ改正協定は平成15年(2003年12月)に発効し、日本については平成27年5月13日に発効しました。意匠法の特例の章も、このジュネーブ改正協定を前提にしています。
手続の流れ
流れは次の5段階です。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 国際出願 | 国際事務局に直接、又は出願人の締約国の官庁を通じて出願 | 協定4条(1)(a) |
| 国際登録 | 国際事務局が国際登録簿に登録。国際登録の日は原則として国際出願の出願日 | 協定10条(1)(2) |
| 国際公表 | 国際事務局が公表。原則は国際登録の日から12か月後 | 協定10条(3)、共通規則17 |
| 拒絶の通報 | 指定締約国の官庁が、国際公表から6か月(宣言により12か月)以内に通報 | 協定12条、共通規則18(1) |
| 保護の効果 | 拒絶の通報がなければ、期間の満了時までに保護の付与と同一の効果 | 協定14条(2) |
PCTと違って、国際調査や国際予備審査の段階はありません。国際事務局が方式を確認して登録し、実体の審査は各指定締約国が国内法に基づいて行い、登録しない場合は拒絶の通報をする、という構造です。PCTの国際段階は「PCT19条補正と34条補正の違い」で整理しています。
協定の主要な条文
出願の資格と方法
協定3条は、締約国(又は締約国である政府間機関の加盟国)の国民、締約国の領域に住所・常居所・現実かつ真正の工業上若しくは商業上の営業所を有する者が国際出願をすることができると定めます。

4条(1)(a)は、国際出願は、出願人の選択により、国際事務局に直接、又は出願人の締約国の官庁を通じて行うことができるとします。ただし(b)により、締約国は宣言で自国官庁経由の出願を認めないことができます。官庁を通じた間接出願の出願日は、共通規則13(3)により、官庁が受理した日から1か月以内に国際事務局が受け取れば官庁の受理日、それ以外は国際事務局の受理日になります。
共通規則によれば、国際出願の言語は英語、フランス語、スペイン語のいずれかで、一つの国際出願に含められる意匠は100までです。
優先権と国際出願の効果
6条(1)(a)は、国際出願にパリ条約4条による優先権を主張する申立てを含めることができるとし、6条(2)は、国際出願は、その出願日から、その後の結果にかかわらず、パリ条約4条にいう正規の出願と同等とすると定めます。
14条(1)は、国際登録は、国際登録の日から、各指定締約国において、その国の法令に基づく正規の出願と少なくとも同一の効果を有するとします。
公表とその延期
10条(3)(a)は、国際登録は国際事務局が公表し、その公表は全ての締約国で十分な公示とみなされ、名義人に他の公示を求めてはならないとします。公表の時期は共通規則17(1)で定められ、出願人の請求による登録直後の公表、延期の請求がされたときの延期期間満了直後の公表などのほかは、国際登録の日から12か月後とされています。同じ特許庁の概要ページによれば、この標準の公表期間は令和4年1月1日に6か月から12か月に延長されました。
11条は公表の延期を定めます。延期の最大期間は、共通規則16(1)により、出願日(優先権を主張した場合は優先日)から30か月です。締約国の法令がこれより短い延期期間しか認めていないときや、延期を認めていないときは、宣言でその旨を通告します。
拒絶と保護の効果
12条(1)は、指定締約国の官庁は、その国の法令上の保護の付与の条件を満たさないときに国際登録の効果を拒絶できるとしつつ、出願の形式又は内容に関する要件を満たさないことを理由に拒絶してはならないとします。拒絶の通報は所定の期間内に国際事務局にし(12条(2)(a))、全ての理由を記載しなければなりません(同(b))。
所定の期間は、共通規則18(1)(a)により国際公表から6か月ですが、審査を行う官庁の締約国は、宣言により12か月にできます(同(b))。WIPOが公表している宣言の一覧では、日本は12か月の宣言をしています。

14条(2)(a)は、拒絶の通報をしなかった指定締約国では、遅くとも拒絶の通報の期間の満了時から、国際登録がその国の法令に基づく保護の付与と同一の効果を有するとします。拒絶を後から取り下げた場合は、取下げの時から同一の効果が生じます(同(b))。
存続期間
17条は国際登録の存続期間を定めます。
- 国際登録の日から5年の当初期間(17条(1))
- 所定の手数料を払って5年ずつ更新できる(17条(2))
- 更新を条件に、各指定締約国での保護期間は国際登録の日から15年(17条(3)(a))
- 締約国の法令が15年より長い期間を定めていれば、更新を条件にその期間(17条(3)(b))
WIPOの一覧では、日本が宣言している最長の保護期間は25年です。
指定手数料
7条(1)は、所定の手数料に指定締約国ごとの指定手数料を含めるとし、7条(2)は、審査を行う官庁の締約国などが、宣言により、標準の指定手数料に代えて個別指定手数料を求めることができるとします。日本はこの宣言をしており、これを受けたのが意匠法60条の21です。
日本から出すとき:国際登録出願(60条の3〜60条の5)
意匠法の特例の章は、第1節「国際登録出願」と第2節「国際意匠登録出願に係る特例」に分かれています。名前が似ているので、まず向きを押さえます。

| 用語 | 向き | 条文 |
|---|---|---|
| 国際登録出願 | 日本の特許庁を通じて国際出願をする(日本から外へ) | 60条の3 |
| 国際意匠登録出願 | 日本を指定締約国とする国際出願で、日本の意匠登録出願とみなされたもの(外から日本へ) | 60条の6第3項 |
60条の3第1項は、日本国民又は日本国内に住所若しくは居所(法人にあっては営業所)を有する外国人が、特許庁長官にジュネーブ改正協定の国際出願をすることができると定めます。経済産業省令で定める要件に当たるときは、二人以上が共同して出願できます。同条2項により、国際登録出願は外国語で作成した願書と必要な物件を提出して行います。67条1項4号により、国際登録出願をする者は手数料を納めます。
特許庁の「国際出願(意匠)」ページでは、国際出願はWIPOのオンラインサービス(eHague)で国際事務局に直接出願するほか、日本国特許庁に願書を提出する方法も選べるとされています。
日本を指定されたとき:国際意匠登録出願の特例
出願とみなされる時期と日(60条の6)
60条の6第1項は、日本国を指定締約国とする国際出願であって、国際公表がされたものは、国際登録の日にされた意匠登録出願とみなすと定めます。二以上の意匠を含む国際出願は、国際登録の対象である意匠ごとにされた意匠登録出願とみなされます(2項)。国際登録簿に記録された名義人、創作者、製品は、それぞれ願書の出願人、創作者、意匠に係る物品等とみなされ(3項)、国際登録簿に記録された意匠は図面に記載された意匠とみなされます(4項)。
「国際公表がされたもの」が要件で、みなされる日付は「国際登録の日」です。時期と日付を入れ替えた枝に注意します。特許庁は、国際公表があったときに出願番号を付して出願人に通知します(意匠法施行規則8条の2)。国際意匠登録出願も、日本の審査官が意匠法に基づいて審査します。

国内出願と違う特例
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 60条の7 | 新規性喪失の例外の書面と証明書を、国際公表があった日後30日以内に提出できる(施行規則1条の2)。国際出願と同時に証明書を国際事務局に出せば、国際登録の日に提出したものとみなす |
| 60条の8 | 関連意匠の出願日の判断に、ジュネーブ改正協定6条(1)(a)の優先権を加える |
| 60条の9 | 国際意匠登録出願の出願人には、14条(秘密意匠)を適用しない |
| 60条の10 | 優先権は協定6条(1)(a)による。優先権証明書類の提出期間は国際公表があった日から3月(施行規則12条の2) |
| 60条の12 | 国際公表後、意匠を記載した書面を提示して警告すれば、設定の登録前の実施者に補償金の支払を請求できる |
| 60条の13 | 意匠権の設定の登録は、登録料の納付ではなく、意匠登録をすべき旨の査定又は審決によってされる |
| 60条の14 | 基礎の国際登録が消滅すると、出願は取り下げたものとみなされ、意匠権は消滅したものとみなされる |
| 60条の18・60条の19 | 移転等は登録しなければ効力を生じない。移転や消滅は国際登録簿に登録されたところによる |
| 60条の21 | 登録料(42条〜45条)の代わりに、個別指定手数料を国際事務局に納付する |
秘密意匠と補償金請求権
とくに出題されやすいのが60条の9と60条の12です。国際意匠登録出願には秘密意匠の請求ができません。公表を遅らせたい出願人は、協定11条の公表の延期を使うことになります。公表の延期は協定、秘密意匠は国内法、と対応させて覚えると区別がつきます。秘密意匠の制度そのものは「意匠法14条の秘密意匠」で扱っています。

60条の12の補償金請求権は、国内の意匠登録出願にはない制度です。国内の意匠登録出願には出願公開の制度がなく、設定の登録の後に初めて公報で内容が公になりますが、国際意匠登録出願は登録前に国際公表で内容が公になるため、特許法の出願公開後の補償金請求権(65条)に似た仕組みが置かれています。警告をしない場合でも、国際公表された意匠であることを知って実施した者には請求できます。
登録料がない
60条の21第3項は、国際意匠登録出願と国際登録を基礎とした意匠権には、登録料の42条から45条までを適用しないとします。その代わりに、出願時と国際登録の更新時に個別指定手数料を国際事務局に納めます(同条1項・2項)。60条の13で設定の登録が査定・審決によってされるのも、登録料の規定が適用されないことと対応しています。国際意匠登録出願が取り下げられたり拒絶査定が確定したりしたときは、請求により個別指定手数料の一部が返還されます(60条の22)。
存続期間と更新
国際意匠登録出願は国際登録の日にされた意匠登録出願とみなされるので、意匠権の存続期間は21条1項により、国際登録の日から25年で終了します。ただし国際登録そのものは協定17条により5年ごとに更新しなければならず、更新されずに国際登録が消滅すると、60条の14第2項により国際登録を基礎とした意匠権も消滅したものとみなされます。

国内の意匠権は、毎年の登録料を納めて維持します。国際登録を基礎とした意匠権は、国際事務局での5年ごとの更新で維持します。維持の手続の窓口が国際事務局にあることが、マドプロの国際登録と似ている点です。商標の国際登録は「マドプロの仕組み」で比べてください。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、協定と意匠法から書き起こしました(過去問そのものではありません)。
例題 意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定及び意匠法に関し、正しいものはどれか。
- イ 日本国を指定締約国とする国際出願は、国際登録がされた時に、国際公表の日にされた意匠登録出願とみなされる。
- ロ 国際意匠登録出願の出願人は、第1年分の登録料の納付と同時に、その意匠を秘密にすることを請求することができる。
- ハ 国際登録の存続期間は、国際登録の日から10年であり、更新することができる。
- ニ 国際意匠登録出願の出願人は、国際公表があった後に、国際意匠登録出願に係る意匠を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後意匠権の設定の登録前に業としてその意匠を実施した者に対し、補償金の支払を請求することができる。
- ホ 国際出願は、国際事務局に直接しなければならず、締約国の官庁を通じてすることはできない。
正解はニです(60条の12第1項)。イは、国際公表がされたものが国際登録の日にされた出願とみなされるので、時点と日付が逆です。ロは60条の9で秘密意匠の規定が適用されず、そもそも登録料の規定もありません。ハは当初期間が5年です(協定17条(1))。ホは協定4条(1)(a)により官庁を通じた出願もでき、日本では60条の3で特許庁長官に出願できます。
型としては次のものが繰り返し使われます。
時期と日付の入替え。出願とみなされるのは「国際公表がされたもの」、日付は「国際登録の日」です。
期間の数字。存続期間は5年ごとの更新、保護は最低15年(日本は25年)、標準の公表は国際登録から12か月、公表延期は最大30か月、拒絶の通報は国際公表から6か月(日本は12か月)です。PCTやマドプロの数字との入替えにも注意します。
国内の制度をそのまま当てはめる枝。秘密意匠、登録料、登録料の納付による設定の登録は、国際意匠登録出願には当てはまりません。逆に補償金請求権は、国内の意匠登録出願にはない制度です。
国際登録出願と国際意匠登録出願の取り違え。60条の3は日本から出す手続、60条の6以下は日本を指定されたときの特例です。
学習の進め方
ハーグは、PCTとマドプロを学んだ後に、共通点と違いで覚えるのが効率的です。国際事務局が中心になる点はマドプロに近く、実体の審査を各国に委ねる点も共通しますが、本国の基礎出願を必要としない点、公表の延期がある点はハーグの特徴です。
意匠法の特例は、60条の6から60条の23を「出願」「優先権・新規性喪失の例外」「公表・補償金」「登録・維持・消滅」「手数料」の5つに振り分けて表にすると、条文番号と内容が結びつきます。条約で4点を確保する意味は「短答式の合格基準と科目別足切り」で確認してください。
まとめ
- ジュネーブ改正協定は平成11年採択、日本では平成27年5月13日に発効。国際出願は国際事務局に直接又は官庁を通じて行う(協定4条)
- 国際登録の日は原則として出願日。国際公表は原則として国際登録から12か月後、延期は最大30か月。拒絶の通報は国際公表から6か月(日本は宣言により12か月)
- 国際登録は5年ごとに更新。保護期間は最低15年で、日本は25年を宣言
- 日本を指定した国際出願は、国際公表がされたものが国際登録の日にされた意匠登録出願とみなされる(意匠法60条の6)
- 国際意匠登録出願には秘密意匠が使えず(60条の9)、国際公表後の警告による補償金請求権がある(60条の12)
- 登録料の規定は適用されず個別指定手数料を国際事務局に納付(60条の21)。設定の登録は査定・審決による(60条の13)。国際登録が消滅すると出願は取下げ、意匠権は消滅とみなされる(60条の14)
条約の肢別演習を一覧で一気に○×。解説と条文がその場で開きます。