パリ条約の内国民待遇と特許・商標の独立|2条・4条の2・6条
弁理士試験短答式のパリ条約の内国民待遇(2条)と準同盟国民(3条)、各国特許の独立(4条の2)、商標の独立(6条)を条文で整理。2条(3)の留保、4条の2(2)の無効・消滅・存続期間、(5)の優先権を伴う特許の存続期間、6条と6条の5(テル・ケル)の関係、優先権との位置づけ、短答の枝の型をまとめます。
パリ条約の三大原則は、条約科目で最初に覚える項目です。ところが短答の枝になると、優先権(4条)の細部に比べて内国民待遇と独立の原則は「なんとなく分かったつもり」で済まされがちです。実際には、2条(2)と2条(3)の線引き、3条の「現実かつ真正の営業所」、4条の2(2)の「絶対的な意味」、6条と6条の5の関係など、条文の一語を入れ替えるだけで誤りの枝が作れる論点がそろっています。
結論から言うと、内国民待遇と独立の原則の枝は「誰が保護を受けるか(2条・3条)」「各国が自由に決めてよいことは何か(2条(3)・6条(1))」「ある国の権利の運命が他の国の権利に影響するか(4条の2・6条(2)(3))」「6条の5はどこで独立の例外になるか」の4点で読むと整理できます。優先権は出願日の扱いをそろえる仕組み、独立の原則は権利が成立した後の運命を国ごとに切り離す仕組みで、役割がはっきり分かれています。
条文は特許庁「諸外国の法令・条約等」に掲載された日本語訳で確認しています。パリ条約全体と他の条約の頻出論点は「弁理士短答の条約対策」で扱っているので、この記事では2条・3条・4条の2・6条・6条の5を深掘りします。
三つの原則はどう役割を分けているか
パリ条約は、各国の工業所有権法を一つにまとめる条約ではありません。各国の法律はそのまま残し、その上で外国人を差別しないこと(内国民待遇)、外国に出願するときの時間的な不利を除くこと(優先権)、ある国の権利の運命を他の国に持ち込まないこと(独立)を約束する条約です。
| 原則 | 条文 | 何を決めているか | 日本法で対応する規定の例 |
|---|---|---|---|
| 内国民待遇 | 2条・3条 | 同盟国の国民を自国民と同一に保護する | 特許法25条3号・26条 |
| 優先権 | 4条 | 第一国出願の日から一定期間内の後の出願を不利に扱わない | 特許法43条 |
| 各国特許の独立 | 4条の2 | 各国の特許は他の国の特許から独立する | 特許法67条(存続期間は日本の出願日から) |
| 商標の独立 | 6条 | 商標の登録の条件は国内法令で定め、各国の登録は独立する | 商標法の登録要件 |
三つの原則は、互いに補い合っています。内国民待遇があるので外国人も各国の法律の下で権利を取れ、優先権があるので複数の国に順番に出願しても不利にならず、独立の原則があるので取った権利はそれぞれの国の法律だけで判断されます。
内国民待遇(2条)
2条(1):内国民と同一の保護と救済
2条(1)は、各同盟国の国民は、工業所有権の保護に関し、他のすべての同盟国において、その国の法令が内国民に現在与え又は将来与えることがある利益を享受するとします。同盟国の国民は、内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け、権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられます。
ポイントは二つです。一つは、比べる相手が「その国の内国民」であることです。外国人を自国民より不利に扱うことは禁じられますが、自国民と同じ条件・手続に従わせることは許されます。もう一つは、冒頭の「この条約で特に定める権利を害されることなく」という部分です。内国民待遇は、優先権のように条約自体が直接与える権利と並んで働きます。
日本の特許法25条は、日本国内に住所又は居所(法人は営業所)を有しない外国人が特許に関する権利を享有できる場合を定め、3号で「条約に別段の定があるとき」を挙げています。パリ条約の同盟国の国民は、この3号によって権利を享有できます。
2条(2):住所・営業所を条件にできない
2条(2)は、各同盟国の国民が工業所有権を享有するためには、保護が請求される国に住所又は営業所を有することが条件とされることはないとします。権利を持つこと自体に、国内の住所や営業所を要求してはならないという意味です。
2条(3):各国の法令に任される事項
2条(3)は、次の事項については各同盟国の法令の定めるところによるとします。

- 司法上及び行政上の手続
- 裁判管轄権
- 工業所有権に関する法令上必要とされる住所の選定
- 工業所有権に関する法令上必要とされる代理人の選任
2条(2)が「権利の享有の条件」として住所を要求することを禁じるのに対し、2条(3)は「手続の場面」で住所の選定や代理人の選任を求めることを各国に任せています。日本の特許法8条1項が、在外者は特許管理人によらなければ手続をすることができないとしているのは、この2条(3)の範囲の規定です。在外者も権利を享有でき(2条(2))、ただ手続は国内に住所又は居所を有する代理人を通じて行う(2条(3))、という二段の構造です。
相互主義ではない
内国民待遇は、相手国が自国民をどう扱っているかを条件にしません。ある同盟国の法律が他の同盟国より保護を厚くしていても、その国は、自国民に与える保護をすべての同盟国の国民に与えます。「相手国が自国民に同一の保護を与えている場合に限り、内国民待遇を与えればよい」とする枝は誤りです。
準同盟国民(3条)
3条は、同盟に属しない国の国民であって、いずれかの同盟国の領域内に住所又は現実かつ真正の工業上若しくは商業上の営業所を有するものは、同盟国の国民とみなすとします。

| 要件 | 条文の文言 | 枝での入れ替え |
|---|---|---|
| 国籍 | 同盟に属しない国の国民 | 同盟国の国民は2条で直接保護されるので3条の問題ではない |
| 場所 | いずれかの同盟国の領域内 | 「保護が請求される国の領域内」に限るとする |
| 住所 | 住所 | 住所にも「現実かつ真正」が必要とする |
| 営業所 | 現実かつ真正の工業上若しくは商業上の営業所 | 名目上の営業所でもよいとする |
住所か営業所のどちらか一方があれば足り、その場所は保護を求める国でなくても、いずれかの同盟国であればよい点が枝になります。「現実かつ真正の」という限定が付いているのは営業所の方です。3条で同盟国の国民とみなされた者は、2条の内国民待遇だけでなく、4条の優先権など条約上の利益も受けられます。
各国特許の独立(4条の2)
4条の2(1):同盟国か否かを問わない
4条の2(1)は、同盟国の国民が各同盟国において出願した特許は、他の国(同盟国であるか否かを問わない。)において同一の発明について取得した特許から独立したものとするとします。比べる相手の国が同盟国かどうかは関係ありません。
4条の2(2):絶対的な意味での独立
4条の2(2)は、(1)の規定は絶対的な意味に解釈しなければならないとし、特に、優先期間中に出願された特許が、無効又は消滅の理由についても、また、通常の存続期間についても独立であるという意味だと明記しています。

| 場面 | 独立の内容 |
|---|---|
| 無効 | 第一国の特許が無効にされても、それを理由に他の国の特許が無効になることはない |
| 消滅 | 第一国の特許が年金不納などで消滅しても、他の国の特許は消滅しない |
| 通常の存続期間 | 他の国の特許の存続期間は、第一国の特許の存続期間に左右されない |
わざわざ「優先期間中に出願された特許」を挙げているのは、優先権を主張した出願こそ第一国出願とのつながりが強く、従属させたくなる場面だからです。優先権を主張していても、権利としては独立しています。
4条の2(3)(4):適用される特許
4条の2(3)は、(1)の規定はその効力の発生の際に存するすべての特許について適用するとし、(4)は、新たに加入する国がある場合には、加入の際に加入国又は他の国に存する特許にも同様に適用するとします。既にある特許にも及ぶ点を押さえておけば足ります。
4条の2(5):優先権を伴う特許の存続期間
4条の2(5)は、優先権の利益によって取得された特許については、各同盟国において、優先権の利益なしに特許出願がされ又は特許が与えられた場合に認められる存続期間と同一の存続期間が認められるとします。
優先権を主張したからといって、存続期間が第一国出願の日から計算されて短くなることはない、という意味です。日本の特許法67条1項は、存続期間を「特許出願の日から二十年」としています。ここでいう特許出願の日は日本における出願の日で、パリ条約による優先権を主張していても、第一国出願の日から20年になるわけではありません。存続期間の延長まで含めた整理は「特許権の存続期間と延長登録」で扱っています。
優先権(4条)との位置づけ
優先権と特許独立の原則は、どちらも第一国出願と後の出願の関係を扱いますが、働く場面が違います。

| 項目 | 優先権(4条) | 各国特許の独立(4条の2) |
|---|---|---|
| 働く時期 | 後の出願の審査・判断の場面 | 特許が成立した後の権利の運命 |
| 中身 | 優先期間内の他の出願・公表・実施などによって不利な取扱いを受けない(4条B) | 無効・消滅の理由と通常の存続期間が国ごとに独立 |
| 第一国出願の結果 | 結果のいかんを問わず優先権を生じさせる(4条A(3)) | 第一国の特許の無効・消滅は他の国に影響しない |
4条A(3)は、正規の国内出願とは、結果のいかんを問わず、出願の日付を確定するために十分なすべての出願をいうとします。第一国出願がその後に取り下げられたり拒絶されたりしても、優先権の基礎としての地位は失われません。優先権の側にも、第一国の手続の結果を後の出願に持ち込まないという考え方が入っていることになります。日本の国内優先権では先の出願がみなし取下げになる(特許法42条)のに対し、パリ条約の優先権では第一国出願がそのまま残る点の違いは「国内優先権とパリ優先権の違い」で整理しています。
商標の独立(6条)
6条(1):登録の条件は国内法令で定める
6条(1)は、商標の登録出願及び登録の条件は、各同盟国において国内法令で定めるとします。どのような商標を登録するか、どの手続で審査するかは各国が決めます。商標の登録要件が国ごとに違ってよいことの根拠です。
6条(2):本国での登録を理由に拒絶・無効にしない
6条(2)は、同盟国の国民がいずれかの同盟国において登録出願をした商標については、本国において登録出願、登録又は存続期間の更新がされていないことを理由として、登録が拒絶され又は無効とされることはないとします。本国で出願していなくても、他の同盟国で直接登録を受けられます。
6条(3):各国の登録は独立
6条(3)は、いずれかの同盟国において正規に登録された商標は、他の同盟国(本国を含む。)において登録された商標から独立したものとするとします。本国の登録が無効になったり消滅したりしても、他の同盟国の登録には影響しません。括弧書きで本国が含まれている点が、枝で削られやすい部分です。

特許の独立が4条の2で、商標の独立が6条(3)で定められていることになります。意匠については、パリ条約に4条の2や6条(3)に当たる独立の規定は置かれていません。
6条の5(テル・ケル)との関係
6条の5A(1)は、本国において正規に登録された商標は、この条で特に規定する場合を除くほか、他の同盟国においてもそのままその登録を認められかつ保護されるとします。フランス語の「そのまま(telle quelle)」から、テル・ケルの保護と呼ばれます。
6条(1)は登録の条件を各国の国内法令に任せていますが、6条の5は、本国で登録された商標については、商標の形態が他の同盟国の国内法令に合わないことだけを理由に拒絶させない仕組みです。その代わり、本国での登録が前提になるので、独立の原則とは逆に、本国の登録とのつながりが残ります。
| 項目 | 6条(独立) | 6条の5(テル・ケル) |
|---|---|---|
| 本国の登録 | 不要(6条(2)) | 必要(6条の5D) |
| 登録の条件 | 各国の国内法令で定める(6条(1)) | 6条の5Bの場合を除き、そのまま登録を認める |
| 本国の登録の証明 | 求められない | 確定的な登録の前に証明書の提出を求めることができる(6条の5A(1)、公証は不要) |
| 更新 | 各国ごと | 本国の更新は他の同盟国での更新の義務を生じさせない(6条の5E) |
6条の5Bは、テル・ケルの保護を受ける商標でも登録を拒絶し又は無効とできる場合として、保護が要求される国における第三者の既得権を害する場合、識別性を有しない場合や商品の種類・品質などを示す記号のみからなる場合、道徳又は公の秩序に反する場合(特に公衆を欺く場合)を挙げ、10条の2の適用も妨げないとしています。商標に関する法令の規定(公の秩序に関するものを除く)に適合しないことを唯一の理由として、公の秩序に反するものと認めてはならないというただし書もあります。
本国の意味は6条の5A(2)が定めています。出願人が同盟国に現実かつ真正の営業所を有するときはその国、そうでなければ住所がある同盟国、同盟国に住所もない同盟国の国民であれば国籍がある国です。営業所、住所、国籍の順に決まる点が問われます。また6条の5Fにより、優先期間内にされた登録出願は、本国の登録が優先期間の満了後にされた場合でも優先権の利益を失いません。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。

例題 パリ条約に関し、正しいものはどれか。
- イ 各同盟国は、他の同盟国の国民が工業所有権を享有するための条件として、自国に住所又は営業所を有することを求めることができる。
- ロ 同盟に属しない国の国民であって、いずれかの同盟国の領域内に住所を有するものは、同盟国の国民とみなされる。
- ハ 優先権の利益によって取得された特許の存続期間は、優先権の基礎とされた最初の出願の日から計算しなければならない。
- ニ 同盟国の国民がいずれかの同盟国において登録出願をした商標は、本国において登録されていないことを理由として登録を拒絶されることがある。
- ホ 工業所有権に関する法令上必要とされる代理人の選任について、各同盟国は、他の同盟国の国民に自国の代理人の選任を求めることができない。
正しいのはロです。3条は住所又は現実かつ真正の営業所のどちらかがあれば足ります。イは2条(2)に反するので誤り、ハは4条の2(5)により優先権なしの場合と同一の存続期間が認められるので誤り、ニは6条(2)に反するので誤り、ホは2条(3)により代理人の選任は各同盟国の法令の定めるところによるので誤りです。
このほか、次の入れ替えがよく使われます。
- 4条の2(1)の「他の国」を「他の同盟国」に限る(同盟国であるか否かを問わない)
- 4条の2(2)の独立の内容から「通常の存続期間」を外す
- 6条(3)の括弧書き「本国を含む」を外し、本国の登録が無効になれば他の同盟国の登録も無効になるとする
- 6条の5の保護を、本国で登録出願をしただけの商標にも認める(本国での登録が必要)
- 3条の「現実かつ真正の」を住所に付ける
学習の進め方
最初に、2条(2)と2条(3)を対にして書き出します。「権利の享有の条件」と「手続の場面」を分け、特許法8条の特許管理人がどちらの側の規定かを説明できるようにします。次に、3条の要件を「国籍・場所・住所又は営業所」の3つに分けて覚えます。
独立の原則は、4条の2と6条(2)(3)を並べ、「何が独立するのか」を表にまとめます。特許は無効・消滅・通常の存続期間、商標は本国での出願・登録・更新がないことを理由とする拒絶・無効と、本国を含む各国の登録の独立です。最後に、6条の5を6条の例外として位置づけ、本国の登録が必要な点、6条の5Bの拒絶理由、6条の5Eの更新を確認します。
TRIPS協定にも内国民待遇があり、最恵国待遇と並べて問われます。パリ条約との違いは「TRIPS協定のまとめ」で確認してください。
よくある質問
パリ条約の内国民待遇は相互主義ですか
相互主義ではありません。2条(1)は、各同盟国の国民に、他のすべての同盟国でその国の内国民と同一の保護を与えるとしています。相手国が自国民にどのような保護を与えているかは条件になりません。
在外者に特許管理人を求める日本の特許法8条はパリ条約に反しませんか
反しません。2条(3)は、工業所有権に関する法令上必要とされる住所の選定や代理人の選任を各同盟国の法令に任せています。2条(2)が禁じているのは、権利を享有する条件として住所や営業所を求めることです。
優先権を主張した特許の存続期間は第一国出願の日から数えますか
数えません。4条の2(5)は、優先権の利益によって取得された特許に、優先権の利益なしに出願された場合と同一の存続期間を認めるとしています。日本の特許法67条1項の「特許出願の日から二十年」も、日本における出願の日から計算します。
まとめ
- 内国民待遇(2条(1)):同盟国の国民は、内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護と救済を受ける。相互主義ではない
- 2条(2):権利の享有の条件として、保護が請求される国の住所・営業所を求めてはならない
- 2条(3):司法上・行政上の手続、裁判管轄権、法令上必要な住所の選定・代理人の選任は各国の法令による(特許法8条の特許管理人)
- 準同盟国民(3条):非同盟国の国民で、いずれかの同盟国の領域内に住所又は現実かつ真正の営業所を有する者
- 各国特許の独立(4条の2):他の国は同盟国か否かを問わない。無効・消滅の理由と通常の存続期間について絶対的に独立。優先権による特許も優先権なしと同一の存続期間
- 優先権は出願日の扱いをそろえる仕組みで、第一国出願の結果を問わない(4条A(3))。独立の原則は成立後の権利の運命を切り離す
- 商標の独立(6条):登録の条件は国内法令、本国での出願・登録・更新がないことを理由に拒絶・無効にしない、各国の登録は本国を含め独立
- 6条の5(テル・ケル):本国で正規に登録された商標はそのまま登録・保護。本国の登録が必要で、6条の5Bの場合だけ拒絶・無効にできる
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