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弁理士論文式の合格基準|標準偏差の調整と54点・47点の意味

試験情報 読了 約9分

弁理士試験の論文式(必須科目)の合格基準は、標準偏差で調整した各科目の得点の平均が54点基準の合格点以上、かつ47点未満の科目なし。調整の計算式、配点比率2:1:1:1、令和6〜8年度の合格点、選択科目の60%基準と免除を特許庁の公表資料で整理します。

弁理士試験の論文式筆記試験は、短答式に合格した人(短答式の免除者を含む)が受ける記述式の試験です。必須科目と選択科目に分かれ、合格基準も2つの科目で仕組みがまったく違います。

結論から言うと、必須科目は「素点をそのまま足す試験」ではなく、「採点委員ごとの平均点と標準偏差で得点を換算し、3科目の平均で54点を基準とする合格点を超え、かつ1科目も47点を割らない」試験です。選択科目は素点で満点の60%以上です。この記事では、特許庁の公表資料に書かれている合格基準をそのまま確認し、計算式が意味すること、令和6〜8年度の合格点、配点比率と試験時間、免除までを整理します。

試験全体の流れ(短答式・論文式・口述の3段階)は「弁理士試験とは?試験科目と短答・論文・口述の1年の流れ」で先に確認しておくと、この記事の位置づけがつかみやすくなります。

論文式の合格基準(特許庁の公表どおり)

特許庁の「弁理士試験の案内」と、工業所有権審議会が決定している「弁理士試験の具体的実施方法について」には、論文式の合格基準が次のように書かれています。

必須科目は平均が合格点以上で、かつ47点未満の科目が1つもないことが条件
必須科目は平均が合格点以上で、かつ47点未満の科目が1つもないことが条件
区分 合格基準
論文式全体 必須科目の合格基準を満たし、かつ、選択科目の合格基準を満たすこと
必須科目 標準偏差による調整後の各科目の得点の平均(配点比率を勘案して計算)が、54点を基準として口述試験を適正に行う視点から工業所有権審議会が相当と認めた得点以上であること。ただし、47点未満の得点の科目が一つもないこと
選択科目 科目の得点(素点)が満点の60%以上であること

出典:特許庁「弁理士試験の案内」、工業所有権審議会「弁理士試験の具体的実施方法について」(令和6年4月18日改正)、特許庁「論文式試験における得点調整及び合格基準について」

この表から読み取れる要点は3つです。

1つ目は、必須科目の基準は「平均」と「下限」の二重構造だということです。3科目の平均が合格点に届いていても、どれか1科目が47点未満なら不合格です。短答式の「総合39点以上かつ科目別40%以上」とよく似た形で、1科目を捨てる戦略は成り立ちません。

2つ目は、54点は「固定の合格点」ではなく「基準」だということです。工業所有権審議会が口述試験を適正に行う視点から相当と認めた得点が、その年の合格点になります。後で見るとおり、令和8年度の合格点は54.5点でした。

3つ目は、必須科目と選択科目は別々に判定されることです。必須科目だけ合格した人、選択科目だけ合格した人には、それぞれの科目の免除資格が通知されます(令和8年度受験案内の「合格発表及び通知」)。

もう1つ見落としやすいルールがあります。必須3科目のうち1科目でも受験しない場合は、すべての科目について採点を行わないとされています。意匠や商標を途中で欠席すると、受けた特許・実用新案の答案も採点されません。

出典:工業所有権審議会「弁理士試験の具体的実施方法について」、特許庁「弁理士試験の案内」

標準偏差による得点調整の計算式

論文式の合否が決まる順番。得点調整、47点の下限、54点基準の平均、選択科目の順に見る
論文式の合否が決まる順番。得点調整、47点の下限、54点基準の平均、選択科目の順に見る

なぜ調整するのか

特許庁の資料は、調整の理由を次のように説明しています。論文式(必須科目)は受験者が多いため、各答案を複数の試験委員が分担して採点します。そのため、試験委員の間や試験科目の間で採点の甘さ・辛さに差(採点格差)が生じ得るので、標準偏差によって調整する、という説明です。

公表されている計算式

特許庁が公表している「論文式試験における得点調整及び合格基準について」では、A委員が採点したB受験者の得点を、次の式で算出するとしています。

項目 内容
得点 (B受験者の素点 − A委員が採点した答案全体の平均点)÷ A委員が採点した答案全体の標準偏差 × 第X問の満点 ÷ 10 + 第X問の満点 ÷ 2
標準偏差 (A委員が採点した各個人の素点 − 平均点)の2乗の総和を、(A委員が採点した受験者数 − 1)で割った値の平方根

出典:特許庁「論文式試験における得点調整及び合格基準について」

資料はこの得点を、素点が採点委員の平均点からどの程度離れた位置にあるかを示す数値(偏差値)で算出したもの、と説明しています。

式が意味すること

式の形から、次のことが言えます。

論文式の得点は採点委員の平均点との差で決まり、平均点の答案は満点の半分に換算される
論文式の得点は採点委員の平均点との差で決まり、平均点の答案は満点の半分に換算される
  • 素点が採点委員の平均点ちょうどなら、得点は満点の2分の1になる
  • 素点が平均点より標準偏差1つ分高いと、得点は満点の10分の1だけ上乗せされる(満点の6割)
  • 素点が平均点より標準偏差1つ分低いと、満点の4割になる

満点を100点として読むと、平均点の答案が50点、標準偏差1つ分上の答案が60点です。この読み方をすると、54点は「平均より標準偏差0.4個分上」、47点は「平均より標準偏差0.3個分下」にあたります。科目の得点を何点満点の尺度で表すかの細部までは公表資料に書かれていないので、これはあくまで式の形から読んだ目安です。

この目安から分かるのは、合格ラインは「素点で何割取るか」では決まらないということです。問題が難しく全員の素点が低い年でも、他の受験者との相対的な位置で得点が決まります。逆に言えば、「満点の何割を書けば受かる」という目標の立て方は、論文式ではあまり意味を持ちません。目標にすべきなのは、多くの受験者が書く論点を確実に書き、そのうえで少しだけ上回る答案です。

「配点比率を勘案して」平均する

平均点は、単純な3科目の平均ではなく「配点比率を勘案して計算」します。特実・意匠・商標の配点比率は2:1:1なので、特許・実用新案の得点が平均に与える影響は、意匠・商標のそれぞれの2倍です。

たとえば特実57点・意匠50点・商標55点なら、2:1:1で重みづけた平均は(57×2+50+55)÷4=54.75点になります。ここでも、47点の下限はどの科目にも別にかかります。数値は計算の説明のための例です。

令和6〜8年度の合格点と合格者数

合格点は、論文式筆記試験の合格発表の際に公表されます。直近3年度の発表は次のとおりです。

年度 必須科目の合格点 論文式の合格者
令和6年度 54点 185名
令和7年度 54点 205名
令和8年度 54.5点 201名

出典:特許庁「令和6年度弁理士試験論文式筆記試験合格発表」(令和6年9月24日)、「令和7年度弁理士試験論文式筆記試験合格発表」(令和7年9月24日)、「令和8年度弁理士試験論文式筆記試験合格発表」(令和8年9月18日)

令和6年度・令和7年度は基準どおりの54点、令和8年度は基準を0.5点上回る54.5点でした。54点は下限の保証ではなく、年度によって上に動くことがあると分かります。

特許庁の「論文式筆記試験合格者統計」によると、論文式の合格率は令和7年度が28.0%、令和6年度が27.5%でした。

出典:特許庁「令和7年度弁理士試験論文式筆記試験合格者統計」

この合格率の分母には、その年の短答式合格者と、前年・前々年の短答式合格で免除を受けている人の両方が含まれます。短答式を突破した人の集団の中で、およそ4人に1人強が論文式を通る、という水準です。

試験時間・配点比率と出題範囲

論文式の配点比率。特実:意匠:商標:選択科目=2:1:1:1
論文式の配点比率。特実:意匠:商標:選択科目=2:1:1:1
科目 試験時間 配点比率 法文の貸与
特許・実用新案 2時間 2 あり
意匠 1時間30分 1 あり
商標 1時間30分 1 あり
選択科目 1時間30分 1 法律(民法)の受験者のみあり

出典:工業所有権審議会「弁理士試験の具体的実施方法について」、特許庁「弁理士試験の案内」

科目内の問題ごとの配点は、問題中に明示されます。令和7年度の問題冊子では、特許・実用新案が【問題Ⅰ】45点+55点・【問題Ⅱ】25点+75点の計200点、意匠が50点+50点、商標が40点+60点でした(特許庁「令和7年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)問題及び論点」)。特実の満点が意匠・商標の2倍になっており、配点比率2:1:1と一致します。

必須科目の出題範囲には条約も入る

必須科目の試験科目は「工業所有権に関する法令」で、弁理士法施行規則4条1項により、特許及び実用新案・意匠・商標の3つの法令に分けて行います。同条2項は、出題範囲に工業所有権に関する条約の規定が含まれるとしています。特許庁の案内では、これを「工業所有権法令の範囲内で条約の解釈・判断を考査する」と説明しています。

令和7年度の特許・実用新案の論点には「分割出願におけるパリ条約による優先権の主張」が、商標の論点には「国際登録の取消し後の商標登録出願の特例」が挙がっていました。条約は短答式だけの科目ではなく、四法の条文とつながる範囲で論文式にも出てきます。

出典:弁理士法施行規則4条(e-Gov法令検索)、特許庁「弁理士試験の案内」「令和7年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)問題及び論点」

実施日と合格発表

令和8年度は、必須科目が令和8年6月28日、選択科目が令和8年7月26日、論文式の合格発表が令和8年9月18日でした(令和8年度弁理士試験受験案内)。必須科目と選択科目は別の日に行われます。短答式の合格発表は例年6月上旬なので、発表から必須科目までは3〜4週間程度しかありません。論文式の準備は、短答式の発表を待たずに始めておく必要があります。

選択科目の合格基準

選択科目は、理工Ⅰ(機械・応用力学)・理工Ⅱ(数学・物理)・理工Ⅲ(化学)・理工Ⅳ(生物)・理工Ⅴ(情報)・法律(弁理士の業務に関する法律)の6科目から1つを選び、さらにその中の選択問題を1つ選んで受験します(弁理士法施行規則3条)。選択問題は受験願書の提出時に選び、その後は変更できません。

選択科目は標準偏差による調整がなく、素点で満点の60%以上なら合格
選択科目は標準偏差による調整がなく、素点で満点の60%以上なら合格

合格基準は素点で満点の60%以上です。必須科目と違って標準偏差による調整は行われず、他の受験者との相対的な位置ではなく、自分の素点だけで決まります。

令和9年度からは選択問題が15から9に再編されます。影響を受ける人と対応は「令和9年度からの弁理士試験制度改正」で整理しています。

論文式の免除

論文式には、必須科目と選択科目それぞれに免除があります。根拠は弁理士法11条です。

必須科目の合格による免除は2年で切れ、選択科目の合格による免除には期限がない
必須科目の合格による免除は2年で切れ、選択科目の合格による免除には期限がない
免除の種類 対象 期間
必須科目の合格による免除 論文式の必須科目で審議会が相当と認める成績を得た人 合格発表の日から2年を経過する日までに行う試験(11条2号)
選択科目の合格による免除 選択科目で審議会が相当と認める成績を得た人 その後に行う試験(11条3号。期限なし)
学位・資格による選択科目の免除 修士・博士等の学位、技術士・薬剤師・司法書士などの資格を持つ人 その科目の試験(11条6号、施行規則6条)
審判・審査の事務5年以上 特許庁で審判または審査の事務に通算5年以上従事した人 工業所有権に関する法令・条約の試験(11条5号)

出典:弁理士法11条、弁理士法施行規則6条(e-Gov法令検索)、特許庁「弁理士試験の案内」

特許庁の案内では、選択科目の合格による免除は平成20年度以降の合格者から適用されるとされています。また、論文式は必須科目と選択科目の片方だけでも受験できますが、口述試験に進むには両方に合格している(または免除を受けている)必要があります。

免除の実務で大事なのは、必須科目の免除は2年で切れ、選択科目の免除は切れないという非対称です。必須科目に合格した年に口述で不合格になっても、翌年と翌々年は論文式を受けずに口述から再挑戦できます。一方、選択科目だけ先に合格しておけば、何年後に必須科目を受けても選択科目は受け直しません。学位や資格による免除の範囲と手続は「選択科目の免除」で詳しく扱っています。

合格基準から逆算した答案の方針

1科目47点未満を作らない

47点の下限は、平均が合格点を超えていても容赦なくかかります。特許・実用新案で稼いで意匠・商標を薄くする配分は危険です。特実は配点比率が2倍なので時間を厚く配りつつ、意匠と商標は「確実に平均を割らない」水準まで必ず仕上げます。

「みんなが書く論点」を落とさない

標準偏差による調整では、得点は採点委員が採点した答案全体の平均との差で決まります。多くの受験者が書ける基本論点を落とすと、その分だけ平均より下に位置づけられます。難しい論点で差をつけるより、公表される「論点」に挙がる基本事項を、条文と要件を示して漏れなく書くことが、平均より上に立つ最短の方法です。答案の組み立て方と、公表される論点を使った練習の仕方は「弁理士論文式の書き方」で扱っています。

多くの受験者が書く基本論点を、条文と要件を示して漏れなく書くことが平均より上に立つ近道
多くの受験者が書く基本論点を、条文と要件を示して漏れなく書くことが平均より上に立つ近道

欠席は全科目の採点を消す

体調不良などで意匠か商標を欠席すると、受けた科目も含めて必須科目は採点されません。3科目は1セットと考え、当日は最後の商標まで必ず答案を出します。

必須3科目のうち1科目でも欠席すると、受けた科目も含めて採点されない
必須3科目のうち1科目でも欠席すると、受けた科目も含めて採点されない

まとめ

  • 論文式の合格は「必須科目の合格基準」と「選択科目の合格基準」の両方を満たすこと
  • 必須科目は標準偏差で調整した得点の平均(特実:意匠:商標=2:1:1で勘案)が54点基準の合格点以上、かつ47点未満の科目なし
  • 調整式では、採点委員の平均点の答案が満点の半分、標準偏差1つ分上が満点の6割に換算される
  • 合格点は令和6年度54点・令和7年度54点・令和8年度54.5点。論文式の合格率は令和7年度28.0%
  • 選択科目は素点で満点の60%以上。必須科目の免除は2年、選択科目の免除は期限なし
  • 必須3科目のうち1科目でも欠席すると、全科目が採点されない

論文式に合格した後の最終関門は「口述試験の対策」で整理しています。

読んだあとに、今日の1問を

過去問ベースの肢別演習で、読んだ内容をそのまま演習に移せます。

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