弁理士論文式の書き方|答案の型・答案構成の時間配分と条文の引き方
弁理士論文式(必須科目)の答案は、問題提起・規範・当てはめ・結論の型で書きます。問題文の指示から型を導き、特実120分・意匠商標90分の答案構成の時間配分、貸与される法文を使った条文の引用の仕方、答案用紙のルールとよくある失点を特許庁の公表資料に沿って整理します。
弁理士試験の論文式筆記試験(必須科目)は、特許・実用新案、意匠、商標の3科目で、事例問題に対して答案を書く試験です。短答式で条文知識を身につけた人でも、最初の答案はたいてい「知っていることを並べただけ」になります。
結論から言うと、論文式の答案は「問題提起→規範(条文・趣旨)→当てはめ→結論」の型で、設問ごとに同じ順番で書くのが基本です。この型は予備校の流儀ではなく、特許庁の問題文そのものが求めている形です。この記事では、問題文の指示から型を導き、答案構成の時間配分、貸与される法文を使った条文の引用の仕方、答案用紙のルールと失点しやすいポイントを整理します。
合格基準(標準偏差による調整と54点・47点の意味)は「論文式の合格基準」で扱っているので、この記事では答案の中身に絞ります。
問題文が求めている答案の形
問題文の指示を読む
令和7年度の特許・実用新案【問題Ⅰ】の冒頭には、解答は法令上の根拠を提示し、その要件に各設問の事実を当てはめて結論を導き出すこととする、という趣旨の指示が置かれていました。あわせて、問題に示されていない事実をあえて仮定して論じる必要はない、とも書かれています。

出典:特許庁「令和7年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)問題及び論点」(特許・実用新案の試験問題)
この指示を分解すると、答案に必要な要素がそのまま出てきます。
| 問題文の指示 | 答案の要素 |
|---|---|
| 法令上の根拠を提示し | 規範(根拠条文と要件) |
| その要件に各設問の事実を当てはめて | 当てはめ |
| 結論を導き出す | 結論 |
| (設問が何を問うかを受けて) | 問題提起 |
試験の目的から見る
工業所有権審議会の「弁理士試験の具体的実施方法について」は、論文式の出題方針を、法条の解釈及び理解力、判断力、論理的展開力、文章表現力等の総合的思考力を問う問題を出す、としています。条文の知識(解釈・理解)だけでなく、事例をどう判断し、筋道を立てて文章にするかまでが採点の対象です。
出典:工業所有権審議会「弁理士試験の具体的実施方法について」(令和6年4月18日改正)
答案の型:問題提起・規範・当てはめ・結論
型の中身を、令和7年度の論点にも挙がった「間接侵害」を題材に見ていきます。以下は型の説明のための書き方の例で、特定の年度の模範解答ではありません。
1. 問題提起
設問が何を問うているかを1〜2文で示します。「乙の行為は甲の特許権を侵害するか。乙は特許発明に係る物そのものではなく、その生産に用いる部品を販売しているので、間接侵害(特許法101条)の成否が問題となる」のように、なぜその条文を検討するのかが分かる書き出しにします。
問題提起を省くと、採点者は答案が何の論点を書いているのかを読み取る手間がかかります。論点が複数ある設問では、論点の数だけ問題提起を立てます。
2. 規範(条文と趣旨)
根拠条文を条・項・号まで示し、要件を分けて書き出します。特許法101条2号なら、条文から次の要件を取り出せます。
- 特許が物の発明についてされていること
- その物の生産に用いる物であること
- 日本国内において広く一般に流通しているものでないこと
- その発明による課題の解決に不可欠なものであること
- その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知っていること
- 業として、その生産、譲渡等もしくは輸入または譲渡等の申出をすること
根拠条文:特許法101条2号(e-Gov法令検索)
要件を番号で分けておくと、次の当てはめで「どの要件を検討しているか」が明確になり、検討漏れも防げます。趣旨は、条文の文言だけでは結論が割れる場面(要件の解釈が問われる場面)で1文だけ添えます。全部の論点で趣旨を長く書くと時間が足りなくなります。
3. 当てはめ
要件ごとに、問題文の事実を拾って充足するかどうかを書きます。コツは問題文の言葉をそのまま使うことです。「乙は、甲からの警告書により、甲の製品が特許発明であることと、部品Bがその製品の組立てに用いられていることを知っていた」という事実があれば、「乙は警告書により…を知っていたので、要件5を満たす」と書きます。

当てはめで失点が大きいのは、事実があるのに使っていない場合です。問題文に書かれた事実は、ほとんどが何かの要件の判断材料として置かれています。答案構成の段階で、問題文の事実に線を引き、どの要件に対応するかをメモしておくと漏れが減ります。
4. 結論
設問の問いにそのまま答える形で、1文で言い切ります。「以上より、乙の行為は特許法101条2号により甲の特許権を侵害するものとみなされる」のように、問いが「侵害するか」なら「侵害する/しない」で終えます。当てはめで要件の検討を終えたまま結論を書かない答案は、それだけで印象を下げます。
短い設問は型を圧縮する
論文式には、事例の当てはめではなく「○○について説明せよ」という説明型の設問も出ます。令和7年度の商標【問題Ⅰ】は、商標権の消滅原因について説明させる問題でした。説明型では、問題提起を省き、「規範(条文と要件・効果)」を中心に、必要な範囲で具体例を添える形に圧縮します。
たとえば不使用取消審判なら、商標法50条1項の要件(継続して3年以上、日本国内において、商標権者・専用使用権者・通常使用権者のいずれもが、各指定商品・指定役務について登録商標の使用をしていないこと)と、請求人が「何人も」であることを条文の順に示します。同条2項の立証責任、3項の駆け込み使用の扱いまで書ければ、制度の説明として過不足がありません。
根拠条文:商標法50条(e-Gov法令検索)
答案構成と時間配分
試験時間と配点
令和8年度の必須科目は、1日(令和8年6月28日)に3科目を続けて行う時間割でした。
| 科目 | 試験時間(令和8年度) | 長さ | 令和7年度の配点 |
|---|---|---|---|
| 特許・実用新案 | 10時00分〜12時00分 | 2時間 | 【問題Ⅰ】100点・【問題Ⅱ】100点 |
| 意匠 | 13時15分〜14時45分 | 1時間30分 | 【問題Ⅰ】50点・【問題Ⅱ】50点 |
| 商標 | 15時30分〜17時00分 | 1時間30分 | 【問題Ⅰ】40点・【問題Ⅱ】60点 |
出典:特許庁「令和8年度弁理士試験受験案内」、「令和7年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)問題及び論点」(各科目の試験問題に明示された配点)
科目内の問題ごとの配点は問題中に明示されます(「弁理士試験の具体的実施方法について」)。時間は配点の比で割るのが原則です。特実なら問題Ⅰ・Ⅱで60分ずつ、商標で40点・60点なら36分・54分が目安になります。
答案構成に何分使うか
1問の中を「読解と答案構成」と「答案作成」に分けます。目安は次のとおりです。
| 科目 | 1問あたりの構成 | 1問あたりの答案作成 |
|---|---|---|
| 特許・実用新案(1問60分) | 20分 | 35〜40分 |
| 意匠・商標(1問45分前後) | 15分 | 30分 |
構成の時間を削ると、書き始めてから論点の漏れに気づき、答案の後半で順番が崩れます。逆に構成に30分以上かけると、答案を書き切れません。構成で決めるのは次の4点だけです。
- 設問ごとの論点(問題提起の数)
- 論点ごとの根拠条文(条・項・号まで)
- 要件と、それに対応する問題文の事実
- 結論
構成は文章にせず、条文番号・要件の番号・事実のキーワードだけを書きます。令和7年度の問題冊子の注意事項では、答案作成検討(下書き)のための答案構成用紙(A4判)が試験科目ごとに1枚配布され、追加配布はないとされていました。1枚に収まる粒度で構成を書く練習をしておきます。
問題Ⅱを白紙にしない
時間配分で最も避けたいのは、問題Ⅰに時間を使いすぎて問題Ⅱが途中で終わることです。論文式では、採点委員が採点した答案全体の平均点との差で得点が決まります。1つの設問を完璧に書くより、全設問で基本論点を書き切る方が得点は安定します。残り時間が足りなくなったら、趣旨や細かい当てはめを削り、規範と結論だけでも書くに切り替えます。

条文の引用の仕方
法文は貸与される
論文式の必須科目は、試験の際に弁理士試験用法文が貸与されます(特許庁「弁理士試験の案内」)。令和8年度は、法文の内容は令和8年6月28日時点のもので、その日の試験日程がすべて終わった後に持ち帰ることができるとされていました。
登載されている法令は、特許法・実用新案法・意匠法・商標法だけではありません。それぞれの施行令・施行規則・登録令、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律、特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律、パリ条約・特許協力条約・TRIPS協定・マドリッド協定の議定書・ハーグ協定のジュネーブ改正協定などの条約も含まれています。
出典:特許庁「令和8年度弁理士試験貸与法文について」「令和8年度試験用法文登載法令」
令和7年度の特許・実用新案では、特許権の移転の申請について「手続に必要な様式を参照しつつ」解答させる設問がありました。施行規則の様式まで法文に載っているからこそ出せる問題で、法文は条文を確認するためだけでなく、答案の材料そのものになることがあります。
条文を写さず、要件を抜き出す
法文があるからといって、条文を長々と写すのは時間の無駄です。答案に書くのは次の3つです。

| 書くもの | 書き方の例 |
|---|---|
| 根拠条文 | 「特許法101条2号」のように条・項・号まで |
| 要件 | 条文の文言を短く区切り、番号を付けて列挙 |
| 効果 | 「侵害するものとみなす」のように条文の効果の部分 |
令和7年度の特許・実用新案の問題文には、特許法を「特」、実用新案法を「実」、特許法施行規則を「特施規」のように省略してよい、という指示もありました。問題文に省略の指示があれば、それに従って時間を節約できます。
法文に頼りすぎない
法文は手元にありますが、どの条文を引けばよいかが分かっていないと役に立ちません。答案構成の20分の中で目次から条文を探していては間に合わないので、論点と条文番号の対応は覚えておき、法文は文言の確認に使うのが現実的です。論文式でも条文番号の暗記が要る理由はここにあります。覚え方は「条文の覚え方」で扱っています。
条約の規定の引き方
必須科目の出題範囲には、工業所有権に関する条約の規定が含まれます(弁理士法施行規則4条2項)。令和7年度の特許・実用新案では、パリ条約の規定に言及しつつ解答するよう求める設問がありました。条約を引くときも、「パリ条約4条」のように条まで示し、国内法の条文とどうつながるかを1文で書きます。
答案用紙のルールとよくある失点
令和7年度の問題冊子の「受験上の注意」には、答案の書き方に関わる決まりが並んでいます。

| 決まり | 内容 |
|---|---|
| 答案用紙の使い分け | 特許・実用新案は【問題Ⅰ】を「1問目」、【問題Ⅱ】を「2問目」の答案用紙にのみ記載。意匠・商標はどちらの問題から解答してもよい |
| 答案用紙の追加 | 一切行わない |
| 筆記具 | 黒または青インクのボールペンか万年筆。消せる筆記具・鉛筆などは不可 |
| 訂正 | 該当箇所に二重取消し線を引く |
| 退室 | 開始後60分間と終了前10分間は退室できない |
出典:特許庁「令和7年度弁理士試験論文式筆記試験(必須科目)問題及び論点」(各科目の試験問題の受験上の注意)
このルールと答案の型から、失点しやすいポイントは次のように整理できます。
- 論点落とし:公表される「論点」に挙がる事項を答案で扱っていない。構成の段階で設問ごとに論点を数える
- 根拠条文の誤り・不足:条だけで項・号がない、準用条文を示していない
- 当てはめの漏れ:問題文の事実を使っていない。要件の一部しか検討していない
- 結論がない:検討で終わり、問いに答えていない
- 問題文にない事実の仮定:問題文が不要としている仮定を置いて論じ、時間を失う
- 答案用紙の書き間違い:特許・実用新案で問題Ⅰの答案を「2問目」の用紙に書き始める。用紙の追加はないので、消せない筆記具で書く前に必ず確認する
- 時間切れ:最後の設問が白紙。配点の比で時間を割り、残り時間で書き方を切り替える
書き方を身につける練習法
答案の型は、読んで理解するだけでは身につきません。過去問を使って次の順に練習します。

- 過去問の答案構成を時間を計って作る(1問20分)
- 公表された論点と照合する。構成で拾えなかった論点に印を付ける
- 落とした論点の規範を条文から書き直す。要件の番号付けまで
- 本試験と同じ時間で通しの答案を書く。週1通が目安
- 2〜3週間後に同じ問題の構成だけを再現する
過去問と論点の入手方法、何年分をどう回すかは「論文式の過去問の使い方」で整理しています。
書いた答案の出来を自分だけで判定するのは難しく、論文式で最も独学が効きにくい部分です。公表された論点と照合する自己チェックを土台にしつつ、外部の目をどこで入れるかは「弁理士試験は独学で合格できるか」を参照してください。
まとめ
- 答案の型は「問題提起→規範(条文・趣旨)→当てはめ→結論」。問題文の指示そのものが求めている形
- 規範は条・項・号まで示し、要件を番号で分ける。当てはめは問題文の言葉を使って要件ごとに
- 時間は配点の比で割る。特実は1問60分(構成20分)、意匠・商標は1問45分前後(構成15分)
- 法文は貸与されるが、論点と条文番号の対応は覚えておき、法文は文言と様式の確認に使う
- 答案用紙は問題ごとに分かれ、追加はない。論点落とし・結論なし・時間切れが典型的な失点
論文式の学習時間の配分は「弁理士試験に必要な勉強時間」で具体的に扱っています。
過去問ベースの肢別演習で、読んだ内容をそのまま演習に移せます。