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弁理士は理系が有利?文系でも受かる?合格者の出身系統と選択科目

学習法 読了 約9分

弁理士試験は理系が有利なのか、文系でも合格できるのかを、特許庁が公表する合格者の出身系統(令和7年度は理工系82.0%)と試験の仕組みから検討します。差が出るのは論文式の選択科目と免除、必須科目での技術の読み取りです。理系・文系それぞれの進め方と実務での違いも整理します。

弁理士は特許を扱う仕事なので、「理系でないと受からないのでは」「文系は不利なのでは」という疑問をよく聞きます。逆に理系の人からは、「法律を学んだことがないのに大丈夫か」という不安が出ます。

結論から言うと、試験の中心である短答式と論文式の必須科目は法律の試験で、理系・文系で問われる内容は同じです。差が出るのは主に論文式の選択科目と、その免除の取りやすさです。特許庁が公表する合格者の出身系統では理工系が8割を超えますが、これは試験が理系向けだからというより、志願者の多くが理工系であることと、選択科目の構造によるところが大きいと考えられます。この記事では、合格者の出身系統のデータ、試験のどこで差が出るか、理系・文系それぞれの進め方、実務での違いを整理します。

合格者の出身系統

出身系統別の構成比。志願者と最終合格者(令和7年度)
出身系統別の構成比。志願者と最終合格者(令和7年度)

特許庁は毎年、志願者と合格者の出身校の系統を「理工系」「法文系」「その他」の3区分で公表しています。令和7年度と令和6年度の数字は次のとおりです。

系統 令和7年度 志願者 令和7年度 最終合格者 令和6年度 最終合格者
理工系 2,405人(68.7%) 168人(82.0%) 156人(81.7%)
法文系 799人(22.8%) 27人(13.2%) 27人(14.1%)
その他 297人(8.5%) 10人(4.9%) 8人(4.2%)
計 3,501人 205人 191人

出典:特許庁『令和7年度弁理士試験志願者統計』、特許庁『令和7年度弁理士試験最終合格者統計』(令和6年度の数値は同統計の前年度欄)

志願者の段階ですでに理工系が7割近くを占めています。合格者に占める理工系の割合は、それよりさらに高くなっています。一方で、法文系の合格者も令和7年度・令和6年度ともに27人いて、毎年一定数が合格しています。

この表から「文系は受からない」とは言えません。ただ、法文系の割合が志願者(22.8%)より合格者(13.2%)で小さいことは事実です。その理由を、次の節で試験の仕組みから考えます。なお、統計は受験願書の受付時の情報に基づくもので、この統計には出身系統ごとの合格率は示されていません。

試験のどこで差が出るか

試験の段階ごとに、理系・文系で差が出るところと出ないところ
試験の段階ごとに、理系・文系で差が出るところと出ないところ

弁理士試験の科目を、理系・文系の観点で並べると次のようになります。

段階・科目 内容 理系・文系の差
短答式(5科目) 特許・実用新案、意匠、商標、条約、著作権法・不正競争防止法 法律の知識を問うので、差は小さい
論文式(必須科目) 特許・実用新案、意匠、商標の事例問題 法律の当てはめが中心。特許の事例では技術内容の読み取りが必要
論文式(選択科目) 理工Ⅰ〜Ⅴ、法律(民法)から1科目 差が最も大きい。免除の取りやすさも違う
口述試験 特許・実用新案、意匠、商標 法律の説明なので、差は小さい

出典:e-Gov法令検索「弁理士法」第10条、「弁理士法施行規則」第2条〜第4条

短答式と論文式の必須科目は法律の試験

短答式と論文式の必須科目は、どちらも工業所有権に関する法令の試験です。理系の人も文系の人も、条文と判例、審査基準をもとに正誤を判断し、事例に当てはめて書きます。理系の学位を持っていても、特許法の条文を知らなければ1問も解けません。

論文式の必須科目で理系が有利になりうるのは、特許・実用新案の事例問題で、発明の内容を素早く読み取る場面です。事例には技術的な説明が含まれ、「どの構成が同じで、どこが違うか」を把握しないと論点を拾えません。ただし、問われるのはあくまで新規性・進歩性・補正の適否といった法律の判断で、専門的な技術知識そのものではありません。事例文は受験者が読めるように書かれているので、文系でも慣れで対応できます。

逆に文系、特に法学部出身の人は、条文の読み方や「要件と効果」で考える習慣がすでにあり、法律の学習の立ち上がりが早いことが多くあります。短答式の段階では、法律の学習経験の有無のほうが、理系・文系の違いより影響が大きいと言えます。

差が最も大きいのは選択科目

理系・文系の差が最もはっきり出るのは、論文式の選択科目です。選択科目は弁理士法施行規則3条で次のように定められ、科目ごとの選択問題から1つを選んで受験します。

理系・文系の差が最もはっきり出るのは論文式の選択科目で、理系は学んだ分野を、文系は実質的に民法を選ぶ
理系・文系の差が最もはっきり出るのは論文式の選択科目で、理系は学んだ分野を、文系は実質的に民法を選ぶ
科目 選択問題
理工Ⅰ(機械・応用力学) 材料力学、流体力学、熱力学、土質工学
理工Ⅱ(数学・物理) 基礎物理学、電磁気学、回路理論
理工Ⅲ(化学) 物理化学、有機化学、無機化学
理工Ⅳ(生物) 生物学一般、生物化学
理工Ⅴ(情報) 情報理論、計算機工学
法律(弁理士の業務に関する法律) 民法

出典:e-Gov法令検索「弁理士法施行規則」第3条

令和9年度からは選択問題が再編される予定で、流体力学・土質工学・回路理論が廃止され、化学と情報はそれぞれ1つに統合されます。詳しくは「令和9年度からの選択科目の再編」で整理しています。

選択科目の合格基準は、科目の得点(素点)が満点の60%以上です。試験時間は1時間30分です。

出典:工業所有権審議会弁理士審査分科会試験部会「弁理士試験の具体的実施方法について」

理系の人は、大学や大学院で学んだ分野の選択問題を選べます。文系の人は、実質的に法律(民法)を選ぶことになります。民法は、特許権や商標権の譲渡・共有・契約、損害賠償などの基礎になる法律なので、弁理士試験の学習と無関係ではありません。ただし範囲は広く、特許法とは別に学習時間を確保する必要があります。

選択科目の免除と出身系統

選択科目には免除制度があり、ここでも理系・文系で使えるルートが違います。弁理士法施行規則6条が定める主な免除は次のとおりです。

選択科目の免除は、理系は修士・博士の学位や技術系の資格、文系は司法試験・司法書士・行政書士で受けられる
選択科目の免除は、理系は修士・博士の学位や技術系の資格、文系は司法試験・司法書士・行政書士で受けられる
区分 免除の根拠 免除される科目
学位 選択科目に関する研究による修士・博士の学位(論文の審査に合格した者) 研究に対応する科目
理系の資格 技術士(経済産業大臣の認定が必要)、一級建築士、第一種・第二種電気主任技術者、薬剤師、電気通信主任技術者、情報処理安全確保支援士など 資格ごとに定められた理工系の科目
文系の資格 司法試験合格者、司法書士、行政書士 法律(弁理士の業務に関する法律)

出典:e-Gov法令検索「弁理士法施行規則」第6条

修士・博士の学位による免除は法律の科目にも定められていますが、施行規則6条1号は、法律の科目について工業所有権に関する法令の研究による学位を対象から除いています。

実際の合格者の免除の状況は次のとおりです。令和7年度の最終合格者205人のうち、選択科目の免除者は180人でした。免除の根拠で最も多いのは修士・博士の学位で109人、次いで選択科目の合格者が30人です。行政書士による免除者は5人、司法試験合格者と司法書士による免除者は0人でした。

出典:特許庁『令和7年度弁理士試験最終合格者統計』

理工系の大学院を修了した人は、研究分野に対応する選択科目の免除を受けられる可能性が高く、論文式を必須科目の3科目だけで受験できます。一方、法文系の人が選択科目の免除を受けるには、司法試験・司法書士・行政書士のいずれかの資格が必要で、そうでなければ民法を受験することになります。出身系統による差の多くは、この選択科目の負担の差にあると考えるのが自然です。

最終合格者の選択科目の内訳(免除者を含む)を見ると、法律(弁理士の業務に関する法律)は26人(12.7%)でした。

出典:特許庁『令和7年度弁理士試験最終合格者統計』

選択科目の免除を受けるための手続は、「弁理士試験の選択科目免除」で詳しく扱っています。

理系の人の進め方

理系の人がつまずきやすいのは、法律の文章の読み方です。条文は「〜の場合において、〜のときは、〜することができる。ただし、〜は、この限りでない」という構造で書かれ、主語・要件・効果・例外を正確に切り分けないと、枝の正誤を判断できません。

理系の人は、条文を「誰が」「どんなときに」「何ができるか」「例外」に分けて読む練習から始める
理系の人は、条文を「誰が」「どんなときに」「何ができるか」「例外」に分けて読む練習から始める

進め方のポイントは次の3つです。

  1. 条文を要件と効果に分けて読む練習から始める。最初の1か月は、特許法の条文を読むたびに「誰が」「どんなときに」「何ができるか」「例外は何か」を書き出す
  2. 準用と読み替えを追う。意匠法・商標法は特許法を準用しているので、準用元を開いて差分を確認する。条文の覚え方は「弁理士試験の条文の覚え方」で整理しています
  3. 論文式では技術の説明を書きすぎない。事例の技術内容が分かると、つい技術的な検討を書き込みたくなりますが、答案で評価されるのは法律の要件への当てはめです

選択科目の免除がない場合は、大学で学んだ分野に近い選択問題を選び、過去問で出題の水準を早めに確認します。

文系の人の進め方

文系の人がつまずきやすいのは、特許の事例に出てくる技術的な説明への苦手意識です。ただし、短答式の枝で求められる技術の理解は、多くの場合「AとBが同じ発明か」「どの構成を追加したか」を読み取れる程度です。

文系の人は、技術の説明が長い事例でも、構成要素を箇条書きにして図に描いてから法律の検討に入る
文系の人は、技術の説明が長い事例でも、構成要素を箇条書きにして図に描いてから法律の検討に入る

進め方のポイントは次の3つです。

  1. 事例の発明を図に描く。技術の説明が長い事例は、構成要素を箇条書きにし、発明同士の関係を図にしてから法律の検討に入る
  2. 法律の学習経験を特許法の立ち上げに使う。法学部で学んだ人は、要件・効果で考える習慣を生かし、特許法の手続の流れを早めに一周する
  3. 選択科目の方針を最初に決める。民法を受験するのか、行政書士などの資格による免除を目指すのかで、学習計画が変わる。民法を受験する場合は、短答式に合格した年から論文式の年までの間に民法の学習時間を確保する

出身系統で変わる学習計画

理系・文系の違いは、学習の中身より、論文式の年に何科目を抱えるかという計画の違いとして表れます。選択科目の状況で分けると、次の3つの型になります。

型 典型的な人 論文式の年に受ける科目 計画の要点
免除あり 理工系の修士・博士、技術系資格の保有者 必須科目3科目のみ 学位による免除は、受験願書の提出前に認定申請を済ませておく
理工系の科目で受験 学部卒の理系、免除に当たらない研究分野の人 必須3科目+理工系の選択科目 学んだ分野に近い選択問題を選び、短答式の年から過去問の水準を確認する
法律(民法)で受験 法文系、法律系資格を持たない人 必須3科目+民法 民法は範囲が広い。短答式の合格後すぐに民法の学習を始めるか、1年目から少しずつ並行する

志願者の段階の数字を見ると、令和7年度の志願者3,501人のうち、選択科目の免除者は1,924人でした。選択科目の内訳(免除者を含む)では、法律(弁理士の業務に関する法律)が934人(26.7%)で最も多く、理工Ⅲ(化学)が722人(20.6%)、理工Ⅴ(情報)が633人(18.1%)と続きます。

出典:特許庁『令和7年度弁理士試験志願者統計』

志願者では法律の科目が最も多いのに対し、最終合格者では法律が26人(12.7%)にとどまります。選択科目を受験する人の負担は、必須科目の答案練習と同じ時期に重なります。民法で受験する場合は、必須科目の論文対策の時間を削らないよう、選択科目の学習を前倒しで始めることが大切です。論文式の答案の組み立て方は「弁理士試験の論文の書き方」で整理しています。

実務での違い

弁理士の業務には、特許・実用新案の出願書類の作成や中間対応のほか、意匠・商標の出願、審判、外国出願、契約、侵害の鑑定などがあります。特許の明細書を書く仕事では、発明を正確に理解し、技術的な範囲を言葉で定める必要があるため、その技術分野の知識が大きく役立ちます。特許事務所や企業の知財部で、技術分野ごとに担当が分かれていることが多いのはこのためです。

特許の明細書作成では技術の知識が生き、商標・意匠や契約の業務では法律の運用や交渉の力が中心になる
特許の明細書作成では技術の知識が生き、商標・意匠や契約の業務では法律の運用や交渉の力が中心になる

一方、商標や意匠の業務、ブランドの保護、契約や紛争の対応では、技術の専門知識より法律の運用や交渉の力が中心になります。文系出身の弁理士は、こうした分野で専門性を築くことが多くあります。

どちらの出身でも、試験に合格した時点で扱える業務の範囲に違いはありません。違いは、どの分野で経験を積むかという選択にあります。弁理士の業務と働き方は「弁理士の年収と仕事」で扱っています。

よくある誤解

弁理士試験には学歴・年齢・国籍による受験資格の制限がなく、出身系統に関係なく受験できる
弁理士試験には学歴・年齢・国籍による受験資格の制限がなく、出身系統に関係なく受験できる

「理系でないと受験できない」。弁理士試験には学歴・年齢・国籍による受験資格の制限がありません。出身系統に関係なく受験できます。

「理系なら特許法が得意になる」。特許法は法律で、技術の知識があっても条文を知らなければ解けません。短答式の段階では、理系であることの有利はほとんどありません。

「文系は選択科目で必ず不利になる」。文系でも法律(民法)で受験できますし、行政書士などの資格による免除もあります。不利になるのは、選択科目の方針を決めないまま論文式の年を迎えた場合です。

まとめ

  • 令和7年度の最終合格者205人のうち、理工系は168人(82.0%)、法文系は27人(13.2%)。志願者の段階でも理工系が68.7%を占める
  • 短答式と論文式の必須科目、口述試験は法律の試験で、理系・文系で問われる内容は同じ
  • 差が最も大きいのは論文式の選択科目。理系は学んだ分野の選択問題を選べ、修士・博士の学位による免除も受けやすい
  • 文系は法律(民法)で受験するか、司法試験・司法書士・行政書士の資格による免除を使う
  • 理系は条文を要件と効果に分けて読む練習から、文系は事例の技術内容を図にする練習から始める
  • 実務では特許の明細書作成に技術知識が生き、商標・意匠・契約などは法律の運用が中心になる

選択科目の免除の手続は「弁理士試験の選択科目免除」で、令和9年度からの選択問題の再編は「令和9年度からの選択科目の再編」で確認してください。

読んだあとに、今日の1問を

過去問ベースの肢別演習で、読んだ内容をそのまま演習に移せます。

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