商標権の効力が及ばない範囲|26条・先使用権32条・中用権33条
弁理士試験短答式の商標法26条(商標権の効力が及ばない範囲)を1項各号・2項・3項に分けて整理し、他人の特許権等との調整(29条)、先使用権(32条・32条の2)、中用権(33条)、存続期間満了後の使用権(33条の2・33条の3)を特許法79条・80条と比べながら短答の型でまとめます。
商標権は強い権利ですが、登録されたからといって、その文字や図形をあらゆる場面で独占できるわけではありません。自分の名前を普通に書く、商品の産地や品質を普通に表示する、といった行為まで止められると、取引が成り立たなくなるからです。商標法は、こうした行為を26条で商標権の効力の外に置き、さらに32条・33条などで、登録前から使っていた者に使用を続ける権利を与えています。
結論から言うと、26条の枝は「1項は6つの号で商標の種類を、3項は地理的表示を付す行為を効力の外に置く」「2項の例外は1項1号(自己の氏名等)だけで、設定登録後の不正競争の目的の使用に限る」の2点で判断でき、先使用権・中用権の枝は「32条は周知が要件で対価なし」「32条の2(地域団体商標)は周知不要」「33条は無効審判の請求の登録前に知らないで使用し周知、対価あり」の3点で判断できます。特許法の先使用権(79条)・中用権(80条)と要件が違うところが、そのまま枝になります。
この記事では、商標権の効力の構造、26条1項各号、2項・3項、29条、32条・32条の2・33条・33条の2・33条の3の順に整理し、最後に短答で狙われる型をまとめます。条文はe-Gov法令検索の商標法・特許法の原文で確認しています。
商標権の効力と26条の位置
商標権の効力は2つの方向に働きます。25条は、商標権者が指定商品・役務について登録商標を使用する権利を専有すると定めます(専用権)。37条は、類似する範囲での使用などを侵害とみなします(禁止権)。
26条1項は「商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない」と定めています。専用権・禁止権のどちらについても、各号の商標には効力が及びません。括弧書きにより、各号の商標が他の商標の一部に含まれている場合も対象になります。
26条は「商標」の種類で効力を制限する規定(1項)と、「行為」で効力を制限する規定(3項)に分かれます。先使用権(32条)などは、効力そのものは及ぶことを前提に、一定の者に使用する権利を与える規定です。この違いを最初に押さえておきます。
26条1項各号
| 号 | 効力が及ばない商標 | 対応する登録要件 |
|---|---|---|
| 1号 | 自己の肖像、自己の氏名・名称、著名な雅号・芸名・筆名、これらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標 | 4条1項8号(他人の肖像・氏名等) |
| 2号 | 指定商品またはこれに類似する商品の普通名称・産地・販売地・品質・原材料・効能・用途・形状・生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴・数量・価格、または指定商品に類似する役務の普通名称・提供の場所等を普通に用いられる方法で表示する商標 | 3条1項1号・3号 |
| 3号 | 指定役務またはこれに類似する役務の普通名称・提供の場所・質等、または指定役務に類似する商品の普通名称・産地等を普通に用いられる方法で表示する商標 | 3条1項1号・3号 |
| 4号 | 指定商品・指定役務またはこれらに類似する商品・役務について慣用されている商標 | 3条1項2号 |
| 5号 | 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標 | 4条1項18号 |
| 6号 | 前各号のほか、需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標 | ― |
1号:自己の氏名等
1号は、自己の肖像、自己の氏名・名称をそのまま普通に表示する商標に効力が及ばないとします。言い回しに注意が必要で、氏名・名称には「著名」の限定がありませんが、雅号・芸名・筆名は「著名な」ものに限られ、略称も「これらの著名な略称」に限られます。

「自己の氏名であれば、その著名な略称でなくても、略称を普通に用いられる方法で表示する商標には効力が及ばない」という枝は誤りです。略称は著名なものに限られます。
2号・3号:記述的表示
2号・3号は、3条1項1号・3号に対応する記述的な表示です。注目すべき点は、指定商品そのものだけでなく「これに類似する商品」、さらに「指定商品に類似する役務」の表示まで含まれていることです。商標権の禁止権が類似の範囲に及ぶので、効力の制限もそれに合わせて類似の範囲まで広げられています。
どちらの号も「普通に用いられる方法で表示する」ものに限られます。特徴的な書体やデザインで表示した場合は、この号に当たらない可能性があります。
4号・5号
4号は慣用商標で、3条1項2号と対応します。5号は、商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標で、4条1項18号と対応します。登録商標と同じ表示であっても、慣用商標や当然に備える特徴にすぎない部分には効力が及びません。
6号:出所表示として使われていない商標
6号は、需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識できる態様で使用されていない商標に効力が及ばないとします。登録商標と同じ文字であっても、商品の出所を示す目的ではなく、たとえば内容の説明やデザインとして使われているにすぎない場合は、商標権の侵害にならないということです。
26条2項:1号だけの例外
2項は「前項第一号の規定は、商標権の設定の登録があつた後、不正競争の目的で、自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を用いた場合は、適用しない」と定めています。

押さえる点は2つです。1つ目は、例外の対象が1項1号だけであること。2号〜6号には同じ例外はありません。2つ目は、時期が商標権の設定の登録があった後であることです。登録商標の信用に便乗する目的で自分の氏名等を使う場合に、1号の保護を受けられなくするための規定です。
26条3項:地理的表示を付す行為
3項は、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)による登録に係る特定農林水産物等またはその包装に地理的表示を付する行為(1号)、それを譲渡・引渡し・輸出入等する行為(2号)、広告・価格表・取引書類等に地理的表示を付して展示・頒布・電磁的方法で提供する行為(3号)には、商標権の効力が及ばないとします。ただし、その行為が不正競争の目的でされない場合に限ります(3項柱書ただし書)。
1項が「商標」を単位にしているのに対し、3項は「行為」を単位にしている点が構造上の違いです。地理的表示と地域ブランドの関係では、地域団体商標(7条の2)との役割分担も問われます。地域団体商標の要件は「地域団体商標とは」で整理しています。
29条:他人の特許権等との関係
29条は、商標権者・専用使用権者・通常使用権者による指定商品・役務についての登録商標の使用が、その使用の態様により、次の権利と抵触するときは、指定商品・役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標を使用できないと定めます。
- その商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権、意匠権
- その商標登録出願の日前に生じた他人の著作権、著作隣接権
基準は「商標登録出願の日前」で、特許権等は「出願」、著作権等は「生じた」日で比べます。立体商標が先願の意匠権と抵触する場合や、キャラクターの図形商標が先に生じた著作権と抵触する場合が典型です。29条の主語には使用権者も含まれるので、「29条は商標権者だけを拘束する」という枝は誤りです。他人の商標権との関係ではない点にも注意します。

先使用権(32条)
32条1項の要件を分解すると次のとおりです。
- 時期:他人の商標登録出願前から
- 場所:日本国内において
- 主観:不正競争の目的でなく
- 範囲:その出願に係る指定商品・役務またはこれらに類似する商品・役務について、その商標またはこれに類似する商標の使用をしていた
- 周知性:その結果、その商標登録出願の際(補正により出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの出願の際又は手続補正書を提出した際)、現にその商標が自己の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている
- 継続:継続してその商品・役務についてその商標の使用をする場合
要件を満たすと、その商品・役務についてその商標の使用をする権利を有します。業務を承継した者も同様です。2項により、商標権者・専用使用権者は、先使用権者に対し、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求できます。32条には、対価の支払を定める規定はありません。
特許法79条との違い
特許法の先使用権と比べると、要件の違いがはっきりします。

| 項目 | 特許法79条 | 商標法32条 |
|---|---|---|
| 基準時 | 特許出願の際 | 商標登録出願の際(出願前から使用) |
| 主観 | 発明の内容を知らないで自ら発明等 | 不正競争の目的でなく |
| 準備 | 事業の準備でもよい | 現に使用していたことが必要 |
| 周知性 | 不要 | 需要者の間に広く認識されていることが必要 |
| 相手方の請求 | ― | 混同防止表示の請求(32条2項) |
特許法の先使用権は「事業の準備」でも認められ、周知性は求められません。商標法では、登録主義との調整のため、周知になっている使用だけが保護されます。「商標法の先使用権は、他人の出願の際に使用の準備をしていれば認められる」「周知性は要しない」は、いずれも誤りです。特許法79条の要件は「特許法の先使用権」で整理しています。
地域団体商標の先使用権(32条の2)
32条の2は、他人の地域団体商標の出願前から、日本国内で不正競争の目的でなく、同一・類似の商品・役務について同一・類似の商標を使用していた者に、継続使用を条件として使用する権利を認めます。32条と違い、周知性の要件がありません。
地域団体商標は、もともと地域の多くの事業者が使っていた名前を登録するものなので、組合等に加わらずに同じ名前を使ってきた事業者を広く保護する必要があるからです。2項は、商標権者が、自己または構成員の業務に係る商品・役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すよう請求できるとしています。

中用権(33条)
33条は、無効審判で登録が無効にされた場合に、もとの権利者側を保護する規定です。1項の対象者は次の3つです。
- 1号:同一・類似の商品・役務について使用をする同一・類似の商標についての2以上の商標登録のうち、その1つを無効にした場合における原商標権者
- 2号:商標登録を無効にして、同一・類似の商品・役務について使用をする同一・類似の商標について正当権利者に商標登録をした場合における原商標権者
- 3号:1号・2号の場合に、無効審判の請求の登録の際、現にその無効にした商標登録に係る商標権についての専用使用権、または31条4項の効力を有する(登録された)通常使用権を有する者
これらの者が、46条1項の審判の請求の登録前に、商標登録が無効理由に該当することを知らないで、日本国内において使用をし、その商標が自己の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたときは、継続して使用する場合に使用する権利を有します。
2項により、商標権者・専用使用権者は、中用権者から相当の対価を受ける権利を有します。3項で32条2項(混同防止表示の請求)が準用されます。
特許法80条も、無効審判の請求の登録前に無効理由を知らないで実施等をしていた原特許権者等に通常実施権を与え、2項で相当の対価を定めています。商標法33条はこれに周知性の要件を加えた形です。
存続期間満了後の使用権(33条の2・33条の3)
商標登録出願の日前または同日の特許出願に係る特許権(実用新案権・意匠権も同じ)が商標権と抵触する場合に、その特許権の存続期間が満了したときは、次の者に使用する権利が認められます。いずれも不正競争の目的でされない場合に限ります。

- 33条の2:原特許権者は、原特許権の範囲内で使用をする権利を有する。32条2項(混同防止表示)を準用
- 33条の3:満了の際現に専用実施権・通常実施権を有する者は、原権利の範囲内で使用をする権利を有する。32条2項と33条2項(対価)を準用
29条で商標の使用が制限されていた場面の裏返しです。原権利者本人(33条の2)には対価の定めがなく、実施権者(33条の3)には対価の支払が必要という違いが枝になります。
比較表
| 規定 | 誰が | 基準時 | 周知性 | 対価 | 混同防止表示の請求 |
|---|---|---|---|---|---|
| 32条 | 出願前からの使用者 | 他人の出願の際 | 必要 | なし | あり(2項) |
| 32条の2 | 地域団体商標の出願前からの使用者 | 他人の出願前から使用 | 不要 | なし | あり(2項) |
| 33条 | 無効にされた登録の原商標権者・使用権者 | 無効審判の請求の登録前 | 必要 | あり(2項) | あり(3項) |
| 33条の2 | 満了した特許権等の原権利者 | 存続期間の満了 | 不要 | なし | あり(2項) |
| 33条の3 | 満了した特許権等の実施権者 | 満了の際現に権利を有する | 不要 | あり(2項で33条2項準用) | あり(2項) |
26条〜28条の2と32条〜33条の3は、防護標章登録に基づく権利にも準用されます(68条3項)。防護標章の全体は「防護標章登録」で扱っています。
短答で狙われる型
第1の型:26条1項1号の「著名」の位置。氏名・名称は著名でなくてよく、雅号・芸名・筆名と略称は著名であることが必要です。
第2の型:26条2項の範囲。例外は1号だけで、設定登録後の不正競争の目的の使用に限ります。「2号の産地表示であっても、不正競争の目的で用いた場合は商標権の効力が及ぶ」という枝は、26条2項を根拠にすることはできません。
第3の型:類似の範囲。2号・3号は、類似する商品・役務の普通名称や産地等の表示にも及びます。「指定商品そのものの表示に限る」は誤りです。
第4の型:先使用権の要件。周知性の要否、準備で足りるか、対価の有無を、特許法79条・80条や32条の2と入れ替えます。
第5の型:29条の基準。他人の特許権等は「商標登録出願の日前の出願」、著作権等は「商標登録出願の日前に生じた」ものです。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。
例題1 商標権の効力に関し、正しいものの数はいくつか。
- イ 商標権の効力は、自己の氏名を普通に用いられる方法で表示する商標には、その氏名が著名であるか否かを問わず及ばない。ただし、商標権の設定の登録があった後、不正競争の目的で用いた場合を除く。
- ロ 商標権の効力は、指定商品に類似する商品の産地を普通に用いられる方法で表示する商標にも及ばない。
- ハ 商標権の効力は、他の商標の一部となっている指定商品の普通名称には及ぶ。
- ニ 商標権の効力は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標には及ばない。
- ホ 商標権の効力は、自己の芸名を普通に用いられる方法で表示する商標には、その芸名が著名であるか否かを問わず及ばない。
正しいのはイ・ロ・ニの3つです。ハは26条1項柱書の括弧書き(他の商標の一部となっているものを含む)により誤り、ホは芸名が「著名な」ものに限られるので誤りです。
例題2 商標法上の使用をする権利に関し、誤っているものはどれか。
- イ 32条の先使用権が認められるためには、他人の商標登録出願の際、現にその商標が自己の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることを要する。
- ロ 他人の地域団体商標の商標登録出願前から不正競争の目的でなくその商標の使用をしていた者は、その商標が需要者の間に広く認識されていなくても、継続して使用する場合はその商標の使用をする権利を有する。
- ハ 33条の規定により商標の使用をする権利を有する者は、当該商標権者に対し相当の対価を支払わなければならない。
- ニ 32条の先使用権は、他人の商標登録出願の際に、その商標の使用の準備をしていたにすぎない者にも認められる。
- ホ 当該商標権者は、32条の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。
誤っているのはニです。32条は出願前からの「使用」とその結果としての周知を要件にしており、準備では足りません。
学習の進め方
26条は、1項各号を3条1項・4条1項の号と線で結ぶと覚えやすくなります。2号・3号は3条1項1号・3号、4号は3条1項2号、5号は4条1項18号です。1号だけは登録要件の4条1項8号(他人の氏名等)の裏返しで、ここにだけ2項の例外が付いている、という形で整理します。登録要件の号は「商標法3条・4条の登録要件まとめ」で確認できます。
32条〜33条の3は、上の比較表を白紙に再現できるまで繰り返します。特に「周知性」と「対価」の2列は、特許法79条・80条と並べて書くと混同しなくなります。商標法全体の論点の配置は「商標法の短答対策」で扱っています。
まとめ
- 26条1項は6類型の商標に効力が及ばないとする。他の商標の一部となっているものを含む
- 1号は自己の肖像・氏名・名称と、著名な雅号・芸名・筆名・著名な略称。2項の例外(設定登録後の不正競争の目的)は1号だけ
- 2号・3号は類似する商品・役務の記述的表示にも及ぶ。6号は出所表示として使われていない商標
- 3項は地理的表示を付す行為等。不正競争の目的でされない場合に限る
- 29条:出願日前の出願に係る特許権等・出願日前に生じた著作権等と抵触する態様の使用はできない。使用権者も同じ
- 32条は周知が要件・対価なし。32条の2は周知不要。33条は請求の登録前に知らないで使用・周知・対価あり。33条の2は対価なし、33条の3は対価あり
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