意匠法の部分意匠とは|要件・類否・3条の2を短答用に整理
弁理士試験短答式の意匠法・部分意匠のまとめ。2条1項括弧書きの意味、他の意匠と対比できる一定の範囲を占める部分という要件、類否判断の4つの観点、全体意匠との9条の関係、同一出願人なら公報発行前まで適用されない3条の2ただし書、関連意匠や組物の部分意匠との組合せを、審査基準と条文で整理します。
部分意匠は、関連意匠や秘密意匠と並んで、短答式の意匠10問で毎年のように顔を出す意匠法独自の制度です。条文は2条1項の括弧書き「物品の部分を含む」の一言しかないため、要件や類否判断の中身は意匠審査基準で補って理解する必要があります。そのうえで、3条の2や9条、関連意匠といった他の条文と組み合わせた枝が作られます。
結論から言うと、部分意匠の枝は「部分として成り立つか」「何と何を比べるか」「先願の規定がどう働くか」の3点で読むと整理できます。意匠登録を受けようとする部分は、物品全体の中で他の意匠と対比できる一定の範囲を占める閉じた領域でなければなりません。類否は、物品全体の用途・機能、部分の用途・機能、部分の位置・大きさ・範囲、部分の形状等の4つの観点で判断し、「その他の部分」の形状等だけを比べることはしません。先願との関係では、同じ出願人が自分の全体意匠の公報発行前に部分意匠を出願すれば、3条の2で拒絶されないのが基本です。
この記事では、条文上の位置付け、部分意匠の要件、類否判断、全体意匠との関係(9条・3条の2)、関連意匠・組物との組合せ、短答で狙われる型の順に整理します。条文はe-Gov法令検索の意匠法原文で、審査基準は特許庁の意匠審査基準(令和5年12月改訂の現行版。令和6年1月1日以降の出願に適用)で確認しています。意匠法全体の中での位置付けは「意匠法の短答対策」で扱っています。
部分意匠は2条1項の括弧書きから始まる
2条1項は、「意匠」を次のように定義しています。

物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(…画像の部分を含む。…)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの
物品、建築物、画像のいずれにも「部分を含む」という括弧書きが付いています。これが部分意匠の根拠です。条文上は「部分意匠」という言葉は使われておらず、審査基準も「物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠」と呼んでいます。この記事では短く部分意匠と書きます。
部分意匠の制度は平成10年の意匠法改正で導入され、平成11年1月1日から施行されました(特許庁「平成10年改正意匠法 意匠審査の運用基準」)。それまでは物品全体の意匠しか登録できなかったため、特徴のある一部分だけを真似され、全体としては別の形にされた製品に権利が及びにくいという問題がありました。部分意匠は、創作の中心である部分そのものを登録の対象にすることで、この抜け道をふさぐ制度です。
令和元年改正で建築物と画像が保護対象に加わり、それぞれにも「部分を含む」が付きました。建築物の部分、画像の部分についても部分意匠を受けられます。保護対象の拡充そのものは「画像・建築物・内装の意匠」で整理しています。
部分意匠として登録を受けるための要件
意匠であることの要件に1つが加わる
意匠審査基準(第III部第1章)は、意匠法上の意匠であるための要件として、物品等と認められること、物品等自体の形状等であること、視覚に訴えること、視覚を通じて美感を起こさせることの4つを挙げたうえで、部分意匠についてはもう1つの要件を加えています。

| 要件 | 内容 |
|---|---|
| (1)〜(4) | 全体意匠と共通の意匠該当性の要件 |
| (5) | 他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分であること |
(5)について審査基準は、意匠登録を受けようとする部分が、物品全体の形状等の中に含まれる一つの閉じられた領域でなければならず、その部分と「その他の部分」の境界が明確でなければならないとしています。該当しない例として挙げられているのは、次の2つです。
- 意匠登録を受けようとする部分が稜線のみのもの(面積を持たない)
- 物品全体の形状等のシルエットのみを表したもの(閉じられた領域と認められない)
意匠に係る物品は「物品」でなければならない
部分意匠でも、願書の「意匠に係る物品」の欄に書くのは、部分を含む物品全体です。審査基準の例では、「靴下」を意匠に係る物品とし、「靴下のかかと部分」について意匠登録を受けようとするものは認められます。かかと単独では独立して取引される物品ではありませんが、物品は「靴下」なので問題ありません。一方、模様だけを図面に表して意匠に係る物品を「繊維製品に表す模様」としたものは、物品に該当せず認められません。

図面での特定と、分離した複数の部分
図面では、意匠登録を受けようとする部分と、それ以外の部分を描き分けて特定します。審査基準は、特定の方法を「意匠の説明」の欄に記載しないまま、ある部分を破線で表したような出願について、破線部分を除いた部分意匠なのか、破線状のステッチを施した全体意匠なのかが明らかでない例を挙げています。部分意匠の出願では、どこが意匠登録を受けようとする部分なのかを図面と願書の記載で明確にする必要があります。
一つの物品の中に物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」があるときは、原則として意匠ごとの出願(7条)とは認められません。ただし審査基準(第II部第2章)は、次の場合には一意匠として扱うとしています。
| 一意匠と扱う場合 | 審査基準の例 |
|---|---|
| 形状等の一体性がある(対称、一組となる形状) | ティーシャツ、腕時計用側 |
| 機能的な一体性がある(全体で一つの機能) | 理容用はさみ、携帯電話 |
| まとまりのある部分を「その他の部分」とした | シャープペンシル |
| 開示されていない部分で隔てられて分離して見える | ― |
部分意匠の類否判断は4つの観点で行う
部分意匠の類否は、全体意匠よりも比べる要素が多くなります。意匠審査基準(第III部第2章第1節)は、出願された意匠が部分意匠である場合、次の全てに該当するときに公知意匠と類似すると判断するとしています。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| (1) | 意匠に係る物品等(全体)の用途及び機能が同一又は類似 |
| (2) | 意匠登録を受けようとする部分と、公知意匠の相当部分の用途及び機能が同一又は類似 |
| (3) | その部分の、物品全体の中での位置・大きさ・範囲が同一又はありふれた範囲内 |
| (4) | その部分と相当部分の形状等が同一又は類似 |
注意点は3つあります。第1に、比べる前提は物品全体です。審査基準の例では、カメラのグリップ部分についての部分意匠の場合、意匠に係る物品は「カメラ」なので、新規性の判断の基礎となる資料は「カメラ」とそれに類似する物品の意匠になります。
第2に、「その他の部分」の形状等のみについては対比の対象としません。その他の部分がどんな形でも、それだけで類否の結論は変わりません。ただし位置・大きさ・範囲の観点で、その部分が全体のどこにあるかは考慮されます。審査基準は、位置・大きさ・範囲は、その意匠の属する分野でありふれた範囲内であれば、類否にほとんど影響を与えないとしています。
第3に、公知意匠の側では、公報に載った部分意匠の「その他の部分」に具体的な形状等が表れていれば、それも新規性等の判断の基礎資料になります。自分の部分意匠の出願で破線にした部分も、公報に載れば他人の新規性を否定する資料になりうるということです。
全体意匠との関係:9条(先願)
同じ物品について、全体意匠の出願と部分意匠の出願がある場合に9条が働くかは、短答で繰り返し問われます。現行の意匠審査基準(第III部第5章)は、9条1項・2項の規定を、全体意匠同士、部分意匠同士に加えて、全体意匠と部分意匠との間でも適用について判断するとしています。

全体意匠と部分意匠の類否は、次の全てに該当する場合に類似と判断されます。
- 両意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であること
- 全体意匠の用途・機能と、部分意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途・機能が同一又は類似であること
- 部分意匠の意匠登録を受けようとする部分の位置・大きさ・範囲が、全体意匠の物品全体に対してありふれた範囲内であること
- 全体意匠の形状等と、意匠登録を受けようとする部分の形状等が同一又は類似であること
3つ目の要件があるため、物品のごく一部だけを意匠登録を受けようとする部分にした部分意匠が、全体意匠と9条で衝突する場面は限られます。部分が物品のほぼ全体を占めるような場合に、全体意匠と類似することがありうる、と理解しておけば足ります。
また審査基準は、新規性の判断では公報に載った部分意匠の「その他の部分」も資料になるが、先願の判断ではそのような「その他の部分」との間では9条を適用しないとしています。9条で比べるのは、あくまで双方の「意匠登録を受けようとする意匠」です。
全体意匠との関係:3条の2
3条の2の本文
部分意匠と組み合わせて最も出題されるのが3条の2です。3条の2本文は、出願された意匠が、その出願の日前の他の意匠登録出願であって、その出願後に意匠公報に掲載されたもの(先の意匠登録出願)の願書の記載や図面に現された意匠の一部と同一又は類似であるときは、登録を受けられないと定めます。先願の意匠の一部をほとんどそのまま後願で出しても、新しい創作がないからです。
審査基準(第III部第4章)は、先願の意匠が全体意匠か部分意匠か、また先願と後願の物品が同一・類似・非類似のいずれかを問わず、先願の意匠のうち後願の部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分と比べて、用途・機能と形状等が同一又は類似であれば類似すると判断するとしています。適用される例として、先願の「洗面化粧台」の一部と後願の「洗面化粧棚」、先願の「のこぎり」の一部と後願の「のこぎり用柄」が挙げられています。
逆に、後願が先願の部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」を含む物品全体を表したものである場合は、後願の意匠は先願の意匠の「一部」には当たらないとされています。
ただし書:自己の出願なら公報発行前まで
3条の2ただし書は、後願の出願人と先願の出願人が同一の者であって、先願が掲載された意匠公報(20条3項)の発行の日前に後願の出願があったときは、本文を適用しないとしています。

つまり、自分の全体意匠を出願した後、その意匠公報が発行される前であれば、同じ出願人がその一部について部分意匠を出願しても3条の2では拒絶されません。製品全体のデザインを先に出願しておき、後から特徴的な部分を部分意匠で押さえる、という使い方がこのただし書で可能になっています。
| 後願の出願人・時期 | 3条の2 |
|---|---|
| 他人が出願(時期を問わない) | 適用される |
| 同一の出願人が、先願の意匠公報の発行の日前に出願 | 適用されない(ただし書) |
| 同一の出願人が、先願の意匠公報の発行の日以後に出願 | 適用される |
ただし書の括弧書きは、先願が秘密意匠の場合について、20条4項により願書・図面の内容が後から掲載された公報を除いています。秘密期間中は書誌事項だけの公報が先に出るので、ただし書の基準になるのは、書誌事項の公報の発行日だという読み方になります。関連意匠として出願する場合は、10条3項がこの括弧書きを読み替えています。秘密意匠との関係は「意匠法14条の秘密意匠」で扱っています。
なお、自己の全体意匠の公報が発行された後は、3条の2だけでなく、公報に載った意匠との関係で3条1項(新規性)も問題になります。部分意匠の類否は公知意匠の相当部分と比べて判断するので、公報発行後の出願は二重に不利になると押さえておきます。
関連意匠・組物との組合せ
関連意匠
部分意匠を本意匠にして、それに類似する部分意匠を関連意匠として出願することができます。意匠審査基準(第V部)は、本意匠に類似するかの判断について、部分意匠同士の類否に加え、全体意匠と部分意匠の類否についても先願の章の手法を参照するとしており、部分意匠を関連意匠の制度に乗せることが前提になっています。関連意匠と本意匠が同一である場合は関連意匠として登録を受けられない点は、全体意匠と同じです。
また審査基準は、基礎意匠や基礎意匠に係る関連意匠が部分意匠である場合、10条2項・8項の救済の適用にあたっては、自己の公知意匠のうち、その意匠登録を受けようとする部分に相当する部分を新規性や創作非容易性の判断の基礎資料から除外するとしています。関連意匠の制度全体は「意匠法の関連意匠まとめ」を参照してください。
組物の部分意匠
令和元年改正前の2条1項は「物品(物品の部分を含む。第八条を除き、以下同じ。)」と定めていたため、組物(8条)については部分意匠が認められませんでした。改正で「第八条を除き」がなくなり、令和2年4月1日から組物の部分意匠も登録できるようになりました(特許庁「令和元年意匠法改正特設サイト」)。組物の部分意匠では、全ての構成物品等に意匠登録を受けようとする部分があり、それらの部分に統一があることが必要です。詳しくは「組物の意匠」で整理しています。
短答の枝ではこう問われる
本試験と同じ形の枝を、条文と審査基準から書き起こしました(過去問そのものではありません)。

例題 部分意匠に関し、正しいものはどれか。
- イ 物品の部分について意匠登録を受けることができる制度は、令和元年の意匠法改正により導入された。
- ロ 意匠登録を受けようとする部分が物品の稜線のみである場合でも、他の意匠と対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当する。
- ハ 甲が物品全体の意匠について意匠登録出願Aをした後、Aが掲載された意匠公報の発行の日前に、甲がAの意匠の一部と類似する部分意匠について意匠登録出願Bをした場合、Bは3条の2の規定により拒絶されることはない。
- ニ 部分意匠の類否判断では、「その他の部分」の形状等についても、意匠登録を受けようとする部分の形状等と同様に対比する。
- ホ 意匠法9条1項は、全体意匠の意匠登録出願と部分意匠の意匠登録出願との間では適用されない。
正解はハです。イは平成10年改正(平成11年1月1日施行)で導入された制度なので誤り。ロは審査基準が稜線のみのものを一定の範囲を占める部分に該当しない例として挙げているので誤り。ニは「その他の部分」の形状等のみについては対比しないので誤り。ホは審査基準が全体意匠と部分意匠の間でも9条の適用を判断するとしているので誤りです。ハは3条の2ただし書のとおりです。
型としては次の4つが繰り返し使われます。
導入時期の入替え。部分意匠は平成10年改正、建築物・画像・内装と組物の部分意匠は令和元年改正です。「組物の部分意匠は平成10年改正から認められている」という枝は誤りです。
「その他の部分」の扱い。形状等は対比しないが、位置・大きさ・範囲は考慮する、公報に載れば他人の新規性判断の資料になる、という3つを混ぜた枝が出ます。
3条の2ただし書の要件。「同一の出願人」と「先願の意匠公報の発行の日前」の2つがそろって初めて適用が外れます。出願人が違う、または公報発行後であれば、原則どおり3条の2が働きます。
9条との区別。3条の2は先願の意匠の「一部」との同一・類似、9条は双方の出願意匠同士の同一・類似を見ます。先願が全体意匠で後願がその一部の部分意匠という場面では、まず3条の2を考え、9条は位置・大きさ・範囲がありふれている場合に限って問題になると整理します。
学習の進め方
部分意匠は、条文が一言しかない分、審査基準の考え方を条文に結びつけて覚えるのが近道です。2条1項(定義)、7条(一意匠一出願)、3条1項(新規性)、3条の2、9条、10条を1枚に並べ、それぞれで「部分意匠のときに何が特別か」を書き込むと、枝を読んだときにどの条文の話かがすぐに分かります。
演習では、枝に出てくる出願が全体意匠か部分意匠か、先願か後願か、出願人は同じか、公報は出ているかを、図にして確かめます。時系列の図を描く習慣は関連意匠や秘密意匠の枝にもそのまま使えます。枝単位での記録の付け方は「短答式の過去問は肢別で回す」で紹介しています。
まとめ
- 部分意匠の根拠は2条1項の括弧書き(物品・建築物・画像のいずれにも「部分を含む」)。平成10年改正で導入され、平成11年1月1日施行
- 意匠登録を受けようとする部分は、他の意匠と対比の対象となり得る一定の範囲を占める、一つの閉じられた領域でなければならない。稜線のみ、シルエットのみは不可
- 類否は、物品全体の用途・機能、部分の用途・機能、位置・大きさ・範囲、部分の形状等の4観点。「その他の部分」の形状等のみは対比しない
- 審査基準上、9条は全体意匠と部分意匠の間でも適用が判断される
- 先願の意匠の一部と同一・類似の後願は3条の2で拒絶される。ただし同一の出願人が先願の意匠公報の発行の日前に出願したときは適用されない
- 部分意匠も関連意匠にできる。組物の部分意匠は令和元年改正(令和2年4月1日施行)で可能になった
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