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著作隣接権|実演家・レコード製作者・放送事業者の権利を条文で整理

著作権法・不正競争防止法 読了 約11分

弁理士試験短答式の著作隣接権を整理。89条の4つの主体、実演家人格権(公表権はない)、録音録画権・放送権・送信可能化権・譲渡権・貸与権とワンチャンス主義(91条2項など)、二次使用料と報酬、レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者の権利、101条の保護期間、無方式主義(89条5項)、著作権との違いを表で確認します。

著作隣接権は、著作物を創作した者ではなく、著作物を公衆に伝える役割を担う者に与えられる権利です。条文は89条から104条まで続き、主体ごとに権利の束が違うため、短答では「その主体にその権利があるか」を入れ替えた枝が繰り返し作られます。著作権と同じ名前の権利が並んでいても、範囲や例外が少しずつ違う点も狙われます。

結論から言うと、著作隣接権の枝は「4つの主体のうち誰の権利か」「許諾権か、お金を受ける権利(二次使用料・報酬)か」「一度許諾した後にも権利が及ぶか(ワンチャンス主義)」の3点で読むと整理できます。実演家だけが人格権を持ち、そこに公表権はありません。レコード製作者には放送権がなく、放送に使われたときは二次使用料を受けるにとどまります。

条文はe-Gov法令検索の著作権法原文で確認しています。実演家人格権の細かな比較は「著作者人格権の3つの権利」、保護期間の計算は「著作権の保護期間」で扱ったので、この記事では主体ごとの権利の中身と、著作権との違いを深掘りします。

89条が定める4つの主体

著作隣接権の4つの主体と主な権利
著作隣接権の4つの主体と主な権利

89条1項から4項は、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者の4者について、それぞれ享有する権利の条文を列挙しています。主体の意味は2条1項の定義規定で決まります。

主体 定義(2条1項) 権利の条文
実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者(4号) 89条1項。90条の2〜95条の3
レコード製作者 レコードに固定されている音を最初に固定した者(6号) 89条2項。96条〜97条の3
放送事業者 放送を業として行う者(9号) 89条3項。98条〜100条
有線放送事業者 有線放送を業として行う者(9号の3) 89条4項。100条の2〜100条の5

条文:著作権法2条1項・89条(e-Gov法令検索)

実演家には、実演を指揮する者や演出する者も含まれます。実演は、著作物を演じることのほか、著作物を演じないが芸能的な性質を有する行為も含みます(2条1項3号)。レコードは音を物に固定したもので、音を専ら影像とともに再生することを目的とするもの(映画のサウンドトラックのようなもの)は除かれます(同項5号)。レコード製作者は、そのレコードに固定されている音を最初に固定した者で、後から複製した者ではありません。

89条6項:「著作隣接権」に入らないもの

89条6項は、1項から4項までの権利のうち、実演家人格権と、報酬及び二次使用料を受ける権利を除いたものを「著作隣接権」と呼ぶと定めています。言葉の範囲は次のとおりです。

権利 89条に規定 「著作隣接権」に含まれるか
録音録画権・放送権・送信可能化権などの許諾権 あり 含まれる
実演家人格権(90条の2・90条の3) あり 含まれない
二次使用料を受ける権利(95条・97条) あり 含まれない
報酬を受ける権利(94条の2・95条の3第3項・97条の3第3項) あり 含まれない

条文:著作権法89条6項(e-Gov法令検索)

実演家人格権と、二次使用料・報酬を受ける権利は、89条6項の著作隣接権に含まれない
実演家人格権と、二次使用料・報酬を受ける権利は、89条6項の著作隣接権に含まれない

「実演家人格権は著作隣接権の一つである」とする枝は、89条6項に反するので誤りです。

無方式主義(89条5項)と90条

演奏を録音したレコードを複製するには、隣接権者の許諾に加えて楽曲の著作権者の許諾も必要
演奏を録音したレコードを複製するには、隣接権者の許諾に加えて楽曲の著作権者の許諾も必要

89条5項は、1項から4項の権利の享有には、いかなる方式の履行も要しないと定めます。著作権の17条2項と同じ無方式主義で、登録しなくても実演やレコードの固定の時から権利が生じます。存続期間の始期も、101条1項で実演を行った時、音を最初に固定した時、放送・有線放送を行った時とされています。

90条は、著作隣接権の章の規定は著作者の権利に影響を及ぼすものと解釈してはならないと定めます。ある楽曲の演奏を録音したレコードを複製するには、レコード製作者と実演家の許諾に加えて、楽曲の著作権者の許諾も必要です。隣接権者の許諾があれば著作権者の許諾は要らない、という枝は90条に反します。

実演家の権利

実演家人格権:氏名表示権と同一性保持権だけ

実演家人格権は、氏名表示権(90条の2)と同一性保持権(90条の3)の2つです。著作者人格権と違い、公表権はありません。同一性保持権は「自己の名誉又は声望を害する」改変を受けない権利で、著作者の同一性保持権より範囲が狭く設計されています。実演家人格権は一身に専属して譲渡できず(101条の2)、実演家の死後も、生存していれば侵害となるべき行為は、原則として禁止されます(101条の3。行為の性質・程度や社会的事情の変動などから実演家の意を害しないと認められる場合を除く)。表示の省略の要件などの細かな比較は、冒頭で挙げた著作者人格権の記事の比較表を参照してください。

実演家の許諾権

実演家が専有する権利(許諾権)は次のとおりです。

権利 条文 内容
録音権・録画権 91条1項 実演を録音し、又は録画する
放送権・有線放送権 92条1項 実演を放送し、又は有線放送する
送信可能化権 92条の2第1項 実演を送信可能化する
譲渡権 95条の2第1項 実演をその録音物又は録画物の譲渡により公衆に提供する
貸与権 95条の3第1項 実演をそれが録音されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する

条文:著作権法91条・92条・92条の2・95条の2・95条の3(e-Gov法令検索)

著作者の権利と比べると、上演権・上映権・口述権・翻案権に当たる権利がありません。貸与権は商業用レコード(市販の目的をもって製作されるレコードの複製物)の貸与に限られ、録画物の貸与には及びません。また、貸与権は最初の販売の日から1月以上12月を超えない範囲内で政令で定める期間を経過した商業用レコード(期間経過商業用レコード)には及ばず(95条の3第2項)、その後の貸与については貸レコード業者に報酬を請求できるにとどまります(同条3項)。

お金を受ける権利:二次使用料と報酬

許諾権が及ばない場面や、許諾権がない利用の場面でも、一定の利用には実演家がお金を受け取れる仕組みがあります。

商業用レコードが放送で使われたとき、実演家は放送を止められないが二次使用料を受けられる
商業用レコードが放送で使われたとき、実演家は放送を止められないが二次使用料を受けられる
権利 条文 支払う者と場面
二次使用料 95条1項 放送事業者・有線放送事業者が、許諾を得て実演が録音されている商業用レコードを用いて放送・有線放送をしたとき
報酬 94条の2 有線放送事業者が、放送される実演を有線放送したとき(非営利かつ無料の場合を除く)
報酬 95条の3第3項 貸レコード業者が、期間経過商業用レコードを貸与したとき

条文:著作権法94条の2・95条・95条の3(e-Gov法令検索)

これらは許諾権ではないので、利用そのものを止めることはできません。95条1項の二次使用料を受ける権利は、文化庁長官が指定する団体があるときは、その団体によってのみ行使できます(95条5項)。実演家が個別に放送事業者へ請求するのではなく、指定団体が毎年放送事業者等と協議して額を定める仕組みです(同条10項)。

実演家の権利のワンチャンス主義

ワンチャンス主義は映像への固定を許諾した実演に働き、録音だけの実演には送信可能化権と譲渡権が残る
ワンチャンス主義は映像への固定を許諾した実演に働き、録音だけの実演には送信可能化権と譲渡権が残る

実演家の権利には、最初に録音・録画を許諾した段階で対価を得る機会を与え、その後の利用には権利を及ぼさない仕組みがあります。これをワンチャンス主義と呼びます。中心は91条2項です。

91条2項は、録音録画権を有する者の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く)に録音する場合を除き、録音録画権を適用しないと定めます。映画に出演することを許諾した実演家は、その映画を複製してディスクを作るときに改めて録画を許諾する権利を持ちません。ただし、映画から音だけを取り出してサウンドのみのレコードにするときは、録音権が及びます。

同じ考え方が、放送権・送信可能化権・譲渡権にも組み込まれています。

権利 適用されない実演 条文
放送権・有線放送権 許諾を得て録音され、又は録画されている実演。91条2項の実演で録音物以外の物に録音・録画されているもの。放送される実演を有線放送する場合 92条2項
送信可能化権 許諾を得て録画されている実演。91条2項の実演で録音物以外の物に録音・録画されているもの 92条の2第2項
譲渡権 許諾を得て録画されている実演。91条2項の実演で録音物以外の物に録音・録画されているもの 95条の2第2項

条文:著作権法92条2項・92条の2第2項・95条の2第2項(e-Gov法令検索)

注意したいのは、送信可能化権と譲渡権の例外が「録画」に限られていることです。放送権は、許諾を得て録音された実演にも及びませんが、送信可能化権と譲渡権は、許諾を得て録音されただけの実演(音楽のレコードなど)にはなお及びます。録音された実演をインターネットで配信するには、実演家の送信可能化権の許諾が要ります。短答では「許諾を得て録音されている実演については、送信可能化権は及ばない」という枝が誤りの典型です。

レコード製作者の権利

レコード製作者の権利は次の5つです。人格権はありません。

レコード製作者には放送権がなく二次使用料を受けるだけだが、配信には送信可能化権の許諾が要る
レコード製作者には放送権がなく二次使用料を受けるだけだが、配信には送信可能化権の許諾が要る
権利 条文 性質
複製権 96条 許諾権
送信可能化権 96条の2 許諾権
譲渡権 97条の2第1項 許諾権(適法な譲渡の後は及ばない。同条2項)
貸与権 97条の3第1項 許諾権(期間経過商業用レコードには及ばない。同条2項)
二次使用料・報酬 97条1項・97条の3第3項 商業用レコードの放送・有線放送、期間経過商業用レコードの貸与に対するお金を受ける権利

条文:著作権法96条〜97条の3(e-Gov法令検索)

実演家と違い、レコード製作者には放送権・有線放送権がありません。商業用レコードが放送で使われても、レコード製作者は放送を止めることはできず、97条1項の二次使用料を受けるにとどまります。送信可能化権はあるので、レコードをインターネットで配信するにはレコード製作者の許諾が必要です。放送と配信で扱いが分かれる点が、短答で最も問われるところです。

放送事業者・有線放送事業者の権利

放送事業者と有線放送事業者の権利は、ほぼ同じ形で並んでいます。

放送事業者の伝達権は影像を拡大する特別の装置による公の伝達に限られ、譲渡権・貸与権はない
放送事業者の伝達権は影像を拡大する特別の装置による公の伝達に限られ、譲渡権・貸与権はない
権利 放送事業者 有線放送事業者
複製権(録音・録画・写真その他これに類似する方法) 98条 100条の2
再放送権・有線放送権/放送権・再有線放送権 99条1項 100条の3
送信可能化権 99条の2第1項 100条の4
テレビジョン放送の伝達権(影像を拡大する特別の装置による公の伝達) 100条 100条の5

条文:著作権法98条〜100条の5(e-Gov法令検索)

放送事業者・有線放送事業者には、譲渡権・貸与権も人格権もありません。伝達権は、テレビ放送を受信して影像を拡大する特別の装置(大型の映写装置など)で公に伝達する行為に限られ、通常の家庭用受信機で公に見せることには及びません。99条2項は、法令の規定により行わなければならない有線放送には再放送権・有線放送権が及ばないとしています。

保護期間と権利制限

101条の保護期間

著作隣接権の存続期間は101条が定めます。実演は実演が行われた日、レコードは発行が行われた日(固定後70年以内に発行されなければ固定の日)、放送・有線放送はそれが行われた日の属する年の翌年から起算します。期間は、実演とレコードが70年、放送と有線放送が50年です。実演とレコードは平成30年改正で50年から70年に延びましたが、放送と有線放送は50年のままです。計算の詳細は、冒頭で挙げた保護期間の記事で整理しています。

権利制限は102条で準用する

著作権の制限規定の多くは、102条1項で著作隣接権の目的となっている実演、レコード、放送又は有線放送の利用に準用されます。私的使用のための複製(30条1項)や引用(32条)などが典型です。準用されるかどうかは規定ごとに決まっており、すべての制限規定が4つの対象に一律に準用されるわけではありません。制限規定の全体は「権利制限規定の一覧」を参照してください。

著作権との違い

項目 著作権・著作者人格権 著作隣接権・実演家人格権
主体 著作者 実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者
発生 創作の時。方式不要(17条2項・51条1項) 実演・固定・放送の時。方式不要(89条5項・101条1項)
人格権 公表権・氏名表示権・同一性保持権 実演家のみ。氏名表示権・同一性保持権(公表権はない)
翻案権・上演権など あり(21条以下) なし
保護期間 原則死後70年 実演・レコードは70年、放送・有線放送は50年
権利制限 30条以下 102条で準用
両者の関係 — 著作者の権利に影響を及ぼさない(90条)

条文:著作権法17条・51条・89条・90条・101条・102条(e-Gov法令検索)

短答の枝ではこう問われる

本試験と同じ形の枝を、条文から書き起こしました(過去問そのものではありません)。

著作隣接権の枝は主体と権利、録音と録画、許諾権とお金を受ける権利、70年と50年の入替えで作られる
著作隣接権の枝は主体と権利、録音と録画、許諾権とお金を受ける権利、70年と50年の入替えで作られる

例題 著作隣接権に関し、正しいものはどれか。

  • イ 実演家は、その実演でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利を有する。
  • ロ 実演家の許諾を得て映画の著作物において録画された実演について、その映画の著作物を録画したディスクを作成するときは、実演家の録画権が及ぶ。
  • ハ 実演家の許諾を得て商業用レコードに録音された実演を送信可能化することについては、実演家の送信可能化権は及ばない。
  • ニ レコード製作者は、そのレコードを放送し、又は有線放送する権利を専有する。
  • ホ 放送事業者の著作隣接権は、その放送が行われた日の属する年の翌年から起算して50年を経過した時に満了する。

正しいのはホです(101条2項3号)。イは実演家に公表権がないので誤り。ロは91条2項により、映画の著作物において許諾を得て録画された実演には、録音物に録音する場合を除き録音録画権が及ばないので誤り。ハは92条の2第2項1号の例外が「録画されている実演」に限られ、録音されただけの実演には送信可能化権が及ぶので誤り。ニはレコード製作者に放送権がなく、97条1項の二次使用料を受けるにとどまるので誤りです。

型としては次の4つが繰り返し使われます。

主体と権利の入替え。レコード製作者の放送権、放送事業者の譲渡権・貸与権、レコード製作者や放送事業者の人格権など、ない権利をあるとする枝です。

録音と録画の入替え。送信可能化権と譲渡権の例外は「録画」だけ、放送権の例外は「録音され、又は録画されている」実演です。

許諾権とお金を受ける権利の混同。二次使用料や報酬を、利用を止められる権利として書く枝です。89条6項の「著作隣接権」の範囲もここで問われます。

保護期間の70年と50年。放送・有線放送を70年とする枝、レコードの起算を固定時とする枝です。

学習の進め方

まず89条1項から4項を読み、主体ごとに列挙された条文番号を書き写して、4列の表を作ります。各列に、許諾権、二次使用料・報酬、人格権の有無を書き込めば、主体と権利の入替えの枝はほぼ判断できます。

次に、91条2項、92条2項、92条の2第2項、95条の2第2項を並べて読み、「録音され、又は録画されている」と「録画されている」の違いに線を引きます。ワンチャンス主義はこの4つの条文で完結します。最後に、89条5項・6項、90条、101条を確認し、著作権との違いの表を白紙に書けるようにします。

まとめ

  • 著作隣接権の主体は実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者の4者(89条1項〜4項)。権利の享有に方式は不要(89条5項)
  • 実演家人格権と、二次使用料・報酬を受ける権利は「著作隣接権」に含まれない(89条6項)。著作者の権利には影響しない(90条)
  • 実演家人格権は氏名表示権と同一性保持権だけで、公表権はない
  • 実演家の許諾権は録音録画権・放送権・有線放送権・送信可能化権・譲渡権・貸与権。貸与権は商業用レコードに限られる
  • 許諾を得て映画の著作物に録音録画された実演には、録音物への録音を除き録音録画権が及ばない(91条2項)。送信可能化権と譲渡権の例外は「録画」された実演に限られる
  • 商業用レコードの放送には実演家とレコード製作者が二次使用料を受ける(95条・97条)。レコード製作者には放送権がない
  • 放送事業者・有線放送事業者は複製権、再放送・有線放送の権利、送信可能化権、テレビジョン放送の伝達権を持つ。譲渡権・貸与権・人格権はない
  • 保護期間は実演・レコードが70年、放送・有線放送が50年(101条2項)。権利制限は102条で準用される
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